2009年6月24日11時3分
品切れして書店から消えていた書籍も復刊された。チェーホフの「サハリン島」だ。「1Q84」に引用されたのは「チェーホフ全集」(原卓也訳)。書店からの問い合わせが相次ぎ、版元の中央公論新社は「サハリン島」だけ抜粋し、文字を拡大した新装版を7月10日に発売する。初版5千部。岩波文庫の「サハリン島」(中村融訳)も品切れだったが、53年版の旧仮名遣いのまま5千部増刷した。
「1Q84」の影響は、本の世界にとどまらない。
冒頭で主人公が聴き、何度も登場する音楽は、必ずしもポピュラーとはいえないチェコのヤナーチェックの曲「シンフォニエッタ」。3種類のCDを発売するユニバーサルミュージックは12日から携帯電話の着うた、17日からは着うたフルでの配信を始めた。クラシック音楽になじみのない若い読者を意識している。
主人公がLPで購入するのはジョージ・セル指揮のクリーブランド管弦楽団版。このCDを出すソニーミュージックによると、00年の発売で出荷は2千枚弱だったが、「1Q84」発売直後から注文が殺到、3週間ほどで1万2千枚を新規出荷した。同社CELグループ制作3部の山本正実部長は「CMやドラマではなく、小説がきっかけでクラシックがこれほど売れるというのは前例がない」と話す。
美術界にも効果は及ぶ。インターネットで美術作品を販売するサイトを運営するオフィス・ルカスは、画家の山本容子さんが、ヤナーチェックを97年に描いた版画のネット販売を始めた。(久保智祥、小山内伸、西正之)