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国保:保険料・全市区町村調査 自治体に丸投げ、もう限界(その1)

 国民健康保険(国保)の08年度保険料に関する毎日新聞の全市区町村調査で、所得の4分の1に及ぶ料金を取る自治体もあることが判明し、国が掲げる「国民皆保険」政策の内実が問われている。支払い能力を超えた料金なら、当然に滞納が起きる。そして無保険に陥る人が出るが、それでは皆保険とは掛け声だけなのか。また全国の保険料には最大3・6倍もの地域格差があった。運営を市区町村任せにした結果だが、国の制度として妥当なのか。調査結果や寄せられた自治体の声などを紹介する。【「無保険の子」取材班】

 今回の調査は、「世帯所得200万円。40歳代夫婦2人と未成年の子2人の家族で、固定資産税額は5万円」のモデルを設定。09年5月末時点での1792市区町村と国保関係の2広域組合を調べ、全国の08年度保険料を明らかにしたものだ。このモデルでは保険料を出せない住民税方式を採用するなどの39市区町村は、保険料そのものの調査からは除外した。

 調査の意見欄に、多くの自治体が「すでに保険料は限界」「住む場所で保険料が違いすぎる」と書いた。高すぎる保険料と自治体間格差が、大きな問題と考えていた。

 「国民健康保険と言いながら、自治体で保険料が違いすぎる」と回答したのは福島県浪江町。減り続けてきた国費投入を増やし、地域ごとの保険料の偏りをなくすよう求めた。

 沖縄県浦添市は「被用者保険と比べるより、国保の自治体ごとの格差が大きい」として、住民税と同じく全国一律での保険料算定を求めた。静岡市も「国のもとに医療保険を一元化し、誰もが能力に応じた負担で給付が受けられる制度に」と指摘した。

 こうした声は、昨年来の景気低迷で収納率悪化による保険料収入の減少が確実なため、切実だ。大阪府門真市は「増大する医療費と、低迷する加入者の所得の乖離(かいり)が広がる一方だ」と、より広域で運営する必要性を指摘。岐阜市も被用者保険との一本化を求めた。

 ◇基金が底突き加入者に転嫁 値上げ額最高--和歌山・湯浅町

 本社調査で08年度の値上げ額が19万9120円と最高だった和歌山県湯浅町では、納付書を郵送した昨年7月、町民からの苦情が相次いだ。

 基金が底を突き、07年度の国保特別会計は約1億3000万円の赤字だった。一般会計も苦しく、「加入者に負担してもらう以外なかった」という。

 住民環境課によると、約10年間据え置いてきた保険料を一気に引き上げた。さらに支払い能力に応じた所得割り▽資産割りと、受給に応じた平等割り▽均等割りとの割合を6対4から、政令で標準とされる5対5に変更したため、低所得者の負担が増したという。

 この結果、滞納者が増え、08年度の収納率は前年度から2・64ポイント落ちた。税務課が滞納世帯200件を調べると、約75%で前年より所得が減少。中小零細企業の従業員が国保へ移ったことなどが影響していた。

 担当者は「国が定めた制度で地域差が生じるのはおかしい。国庫負担を引き上げるか、国税で運営してほしい」と窮状を訴えた。【加藤明子】

 ◇無職世帯が過半数 バランス取れぬ給付と負担

 自営業者や農家など被用者保険に入れない人々を対象にスタートした国保。各種医療保険中最大の規模で、国民皆保険の中核である国保運営が危機にひんしているのは、加入者の職業や年齢層が変化し、「給付と負担」のバランスが取れなくなったからだ。

 07年度の市町村国保の加入者数は4723万人で、20年前(87年度)に比べて13・6%増加した。人口の伸び率4・5%の3倍のペースで増えた形だ。

 最も大きく変化したのが職業構成だ。07年度は退職者や失業者などが世帯主の無職世帯が55・4%を占め、87年度の27・3%からほぼ倍増。自営業者と農林水産業者は計18・2%で、87年度の40・1%から半減した。両者の割合は91年度に逆転、その後も無職世帯が増え続けている。

 サラリーマンを意味する被用者も退職後は国保に移行するため、高齢化も急速だ。加入者の年齢構成は、生産年齢人口(15~64歳)に近い「15~59歳」と「60歳以上」の割合が01年度に逆転。08年度から後期高齢者医療制度が始まり75歳以上が別枠に移った(国保など他の医療保険は支援金を拠出)が、今後も逆ピラミッド構造が続きそうだ。

 こうした影響から、加入世帯の平均所得は減少傾向が続いており、07年度は166万円。国民生活基礎調査による全世帯の07年平均所得556万円の3割程度にとどまっている。【竹島一登】

 ◇都道府県に一元化、京都府が検討 課題は財源確保

 国保の運営が多くの市町村の財政を圧迫しているため、京都府は国保を都道府県に一元化する構想を示し、今年度からその効果や課題について検討を始めた。最重要課題である財源確保の手法など構想はまだ具体性に乏しいが、議論の行方に注目が集まっている。

 京都府の猿渡知之副知事(当時)が今年1月、全国知事会の勉強会で、構想を提案。4月に医療企画課を新設、保険財政の安定化や保険料の平準化などの観点から構想について調査を進めている。

 府医療企画課によると、都道府県が医療計画を作成するには従来の行政統計データだけでは不十分で、各保険者が保有している診療報酬明細書(レセプト)データの活用が必要。一元化で入手したデータを分析して地域の実情に応じた対策を取れば、適切な医療水準の維持を図れるという。

 この構想に対し、多くの都道府県が「赤字を生む国保の構造的な問題をそのままにして受け入れられない」という。同課の池上直樹課長は「一元化と財政基盤の確立はセットで国に要求する。都道府県の持ち出しは考えていない」と説明する。【木下武】

 ◇「無保険の子」問題が契機 集計に3カ月

 昨年6月に「無保険の子」救済キャンペーンを開始した後、取材先の自治体からは、滞納者の擁護につながるとの批判も受けた。一部に悪質な滞納者がいることも事実だが、3万3000人を超える中学生以下の無保険の子(08年度)が存在するのは、親にも支払えない理由があるのではないかと考えた。まずは金額を把握しようと思ったが、国などの各種データにナマの保険料を把握できるものはなかった。モデル設定をして、昨年12月に無保険の子がいる自治体を対象に国保の保険料を調べると、予想以上に高額で驚いた。さらに全国の実態把握が不可欠と考え、今年3月から3カ月がかりで全市区町村調査を実施した。【取材班担当デスク・戸田栄】

 ◇国の責任で格差解消を--「無保険の子」問題に取り組む、大阪社保協事務局長・寺内順子さん

 国保の矛盾の一つに「無保険の子」問題があった。問題に取り組んできた大阪社会保障推進協議会(大阪社保協)の寺内順子事務局長に、課題を聞いた。【聞き手・平野光芳】

 --国保の問題点は?

 国保の仕組みは、地域に低所得層が多いほど負担感が増す。一般会計から繰り入れを行うにも、自治体の財政力に左右される。大阪社保協の試算では、保険料が全国最高水準の寝屋川市の国保加入者は、所得が同程度のサラリーマンより3・7倍も負担が重い。せめてサラリーマン並みの負担にし、誰でも払える水準にすべきだ。

 --自治体の多くが都道府県単位への広域化を求めています。

 賛成できない。広域化すると議会や市民のチェックが働きにくく、財政に対する責任があいまいになる可能性がある。そもそも医療水準が同程度の東京と大阪で、なぜ保険料がこれほど違うのか。国が責任を持って格差解消に乗り出すべきだ。

 --4月の改正国保法施行で、中学生以下には保険証交付が義務付けられました。

 高校生世代が救済外となったが、新型インフルエンザ問題でその欠陥が明白になった。集団生活を送る高校生を中心に発症した。無保険で受診を避け、学校などで感染を広げる危険もあった。問題の再燃が懸念される冬までに改善すべきだ。

 --課題は?

 今も中学生以下に保険証が届いていないケースがある。滞納者である親が役所の窓口へ取りに行きにくいためだ。子どもに確実に届くよう、学校経由での交付も考えてほしい。

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 ◇保険料、「4方式」で算出が多数

 08年度保険料を調べた今回のモデル設定をもとに、国保の保険料(保険税として徴収する場合もある)の構造を説明する。

 保険料は、医療分▽介護保険分(介護分)▽後期高齢者支援金分(支援分)の3分野の料金で構成。自治体が採用する算定方法で多いのが「4方式」だ。3分野の内訳料金をそれぞれ、所得割り▽資産割り▽均等割り▽平等割り(世帯割り)の4種類から算出して合計する。3方式もあるが、その場合は4種中の3種で算定する。別に住民税額からの算出方式もある。

 <所得割り>所得から基礎控除額を引いた額に、各自治体が定める料率を掛けて出す。大阪府寝屋川市では、所得割りの料率は10.9%で、所得200万円から基礎控除額33万円を引いた額に掛け、医療分の所得割り額を18万2030円とする。介護分の料率は2.7%で、同様に4万5090円。支援分は2.9%で4万8430円だった。医療分の所得割り額の比重が、全額の中で最も大きく、調査では保険料が高い自治体で、その料率は10%前後に達した。

 <資産割り>固定資産税額に自治体が定めた料率を掛ける。高額2位の北海道喜茂別町では80%だった。寝屋川市は3方式で用いない。

 <均等割り>自治体が決める一定額を利用者数に応じて支払う。同市で医療分は3万3340円、支援分で8820円。モデルは4人家族だから、4掛けとなり、医療分が計13万3360円▽支援分が計3万5280円。介護分は40~64歳からの徴収のため、1万3860円の同市では、40歳代夫婦2人分の計2万7720円が必要だ。支援分が子どもの人数分まで徴収することについては、本社調査で「子どもが高齢者を支援する形になりおかしい」との声も寄せられた。

 <平等割り>1世帯あたりで徴収する一定額。同市では医療分が2万5400円、支援分が6720円。介護分では徴収しない。

 この結果、同市では医療分が34万790円▽支援分が9万430円▽介護分が7万2810円となり、合算して保険料は計50万4030円になる。

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 ◇国保改革をめぐる市町村の主な意見◇

帯広市   (北海道) 加入者は年間所得100万円未満が7割弱を占め保険料負担はすでに限界。国の責任で制度維持を

新庄市   (山形)  「国民皆保険」ではなく「国民皆同一保険」とすべきだ。事務労力を住民の健康推進に振り向けたい

伊達市   (福島)  国保は財政上崩壊の危機にある。改革の第一歩として都道府県単位の単一保険料の設定を

ひたちなか市(茨城)  年間所得100万円以下が48%を占め、滞納の増加は不可避。保険料を上げても解決しない

足利市   (栃木)  国保は国民皆保険の最後の受け皿。国が事業主体となり、必要な事務を市町村に委任するのも一案

練馬区   (東京)  国保は国民の安全網。不均衡を是正し財政を安定させるため、国または都道府県単位に広域化を

加賀市   (石川)  被用者保険と比べ、国保の保険料は高額にならざるをえない。医療保険制度全体の改革が必要

豊明市   (愛知)  団塊世代の加入や外国人ら低所得者の増加で運営は難しくなりつつある。国費投入や広域化を

和歌山市  (和歌山) 国民皆保険を将来も維持するには都道府県単位の統合では限界がある。国全体の医療保険一本化を

雲南市   (島根)  居住する市町村で負担が違うのはおかしい。財政力によって医療に差が出る現状の見直しを

琴平町   (香川)  住民は専門医を求め県外でも受診しており、自治体単位の保険料は時代にふさわしくない

武雄市   (佐賀)  前年度収入に応じて算出する保険料が、景気後退と所得の減少を受けて収納率を悪化させている

毎日新聞 2009年6月21日 東京朝刊

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