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近聞遠見:鳩山邦夫、負けて勝つ?=岩見隆夫
世襲にもいろいろある。鳩山邦夫前総務相(以下、鳩山)が1976年に初出馬する時、自民党の参院議員だった父親の威一郎(元大蔵事務次官、元外相)は、
「絶対にだめだ。そういうくだらん職業を選ぶな」
と反対した。10年後、こんどは長男の由紀夫が政界入りの相談をした時も、威一郎は、
「一家3人で政治なんて。恥ずかしい仕事だから、おてんとうさまに顔向けて歩けないよ」
と言っている。自身は田中角栄元首相に口説かれて渋々参院全国区に立ち、3期18年務めたが、相当の政治嫌いだった。
従って、親の意に沿った世襲ではない。93年、75歳で威一郎が死去したあと、家族による追悼座談会のなかで、鳩山は、
「おやじはすごい政治不信が最後まであった気がする。基本的に信頼できないという思いがあったのかなあ。日本の政治の仕組みや政治姿勢のレベルの低さをよく知っていた。われわれはそれを変えるためにこれから仕事をしなければならないんだけど……」
と語っている。
その後の鳩山の政治歴は波瀾(はらん)万丈だ。自民党を離党したあと、新進党、民主党、都知事選出馬を経て9年前、自民党に戻り、今回、日本郵政の社長人事をめぐる対立から総務相辞任となった。
威一郎の政治不信が乗り移ったかのように、12日、麻生太郎首相に辞表を提出したあと、鳩山の第一声は、
「いまの政治は正しいことを言っても認められないことがある。今回の総理の判断は間違っていた。いずれ歴史が私の正しさを証明してくれる」
だった。政策以前の、正義を前面に掲げた闘いはわかりやすく、迫力がある。<正義>という言葉も久しく耳にしたことがなく、新鮮だ。
麻生政権にとっては、2月の中川昭一前財務相による酔いどれ会見事件よりも厳しい致命傷になった。不祥事と不正義の違いだ。不正義でない、という説明を麻生は国民に対してできなかった。
衆院選前夜、政界は鳩山の<次の一手>に目を凝らしている。ことに自民党は気がもめる。
「すぐにではないが、新党の可能性もある」
と鳩山は漏らしており、<鳩山新党>の旗揚げとなれば、自民党の脅威になりかねないからだ。
東京都議選の行方によっては総裁選前倒し、のうわさもある。その場合、鳩山が名乗りを上げる、という説も流れ、4年前の衆院選を揺り動かした郵政民営化問題は、またも形を変えて政局の重大な火種になってきた。
辞任4日後の16日夕、鳩山は広島市で開かれた河井克行自民党衆院議員のパーティーで講演し、
「正直者がバカをみる社会にしてはいけない。私は自民党をたたき直し、三木武夫さんのように本当の出直し的改革をやる。これをやらなければ、どうにもならないところまできている」
と熱を込めた。なぜ突然三木の名前が出たのか。76年、ロッキード事件の徹底究明に動いた改革派の三木首相は、自民党内で孤立し、<三木おろし>の嵐のなかで、同年暮れの任期満了選挙に追い込まれた。
自民党は敗北して三木政権は総辞職、この選挙で鳩山は初当選した。孤軍奮闘する三木の姿が鮮烈な印象として残り、いまの自分と重なっているに違いない。
鳩山の勝負どきだ。日本郵政社長更迭の主張が通らなかったことでは敗北だったが、風は鳩山のほうに吹いている。勝機と言っていい。(敬称略)=毎週土曜日掲載
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岩見隆夫ホームページhttp://mainichi.jp/select/seiji/iwami/
毎日新聞 2009年6月20日 東京朝刊
毎日新聞東京本社編集局顧問(政治担当)1935年旧満州大連に生まれる。58年京都大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。論説委員、サンデー毎日編集長、編集局次長を歴任。
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