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社説:党首討論 「対決前夜」の気迫を欠く

 争点が浮かんだ点は前進だが、物足りない。麻生太郎首相と民主党の鳩山由紀夫代表による2度目の党首討論が行われ、社会保障の財源問題を中心に応酬した。

 消費税率を上げずに財源対策が可能かをめぐる両氏の論戦はそれなりに聞き応えがあり、次期衆院選のテーマとしてさらに議論を深めるべきだ。ただ、自民党内で東京都議選後の首相退陣すら取りざたされる中、鳩山代表から首相に衆院解散を強く迫る場面は無く、首相も基本的に揚げ足取りが多かった。選挙を控えた緊迫感には乏しかったと指摘せざるを得ない。

 初顔合わせだった前回より実のある討論だった点は率直に認めたい。日本郵政の社長人事問題をめぐるやり取り以上に興味深かったのは、首相が鳩山代表に「消費税、財源の議論をしないということか」と切り込んで始まった財源対策論争だ。鳩山代表は4年間消費税を上げず、国の歳出を縦割りの経費別でなく、人件費など費目別に洗い直すことで財源対策は可能と反論した。

 消費税問題を対立軸に責任政党をアピールしたい首相の狙いはにじんだ。だが、そうならば、早急に自民党の政権公約で消費増税の扱いを決定すべきだろう。

 一方で鳩山代表も、党が掲げる年金制度改革などとの整合性も含め、より踏み込んで社会保障財源について説明する責任がある。討論では国の予算が約12兆円投入される「天下り団体」への支出削減の可能性も議論された。衆院選に向け、さらに論点を掘り下げてほしい。

 それでも、どこか拍子抜けする討論だった。鳩山邦夫前総務相の更迭に伴う混乱、毎日新聞など各世論調査での内閣支持率下落を受け、政府・与党には動揺が広がっている。

 首相に近い自民党幹部は、7月の東京都議選で自民党が敗北すれば、衆院選前の首相退陣もあり得ると発言した。就任直後の所信表明演説で「私は決して逃げない」と国民に誓ったはずの首相だが、3度目の政権投げ出しの可能性を側近が示唆したとすれば重大だ。

 鳩山代表は討論で、北朝鮮に対する国連制裁決議を受け政府が検討する特別措置法案について、早期に党として結論を出す考えを示した。ならば同時に、法案処理後に民意を問う決意と覚悟があるかを首相にただし、衆院解散を迫るべきだった。

 一方で首相は民主党の政策をあげつらうだけでなく、自らの政権の優位性を有権者に訴える意識が不十分だ。小沢一郎前代表の過去の発言を批判し続けるだけでは限界がある。対決前夜にふさわしい真剣勝負の討論を次回、双方に期待する。

毎日新聞 2009年6月18日 東京朝刊

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