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高知医療センター:企業団が表明、PFI解消へ 公費負担軽減のはずが… /高知

 ◇民間委託先の「撤退」提案受け

 全国初のPFI病院、高知医療センター(高知市池)が開院5年目で頓挫した。センターを運営する県・高知市病院企業団が委託先の特定目的会社(SPC)「高知医療ピーエフアイ」の提案を受け、PFI契約の解除に向けた検討を始めると16日表明した。「契約終了が経営改善につながる」という企業団。公費負担軽減が目的だったはずのPFI方式による病院経営は一体どうなってしまったのか。【服部陽】

 ◇堀見院長「診療は継続」

 「契約終了に向けた協議のテーブルにつくことにした」。16日、センターであった企業団議会の席上、山崎隆章企業長が淡々と表明した。

 「経営改善にはSPCが業務を離れることも一つの方法だ」とSPCから企業団に非公式に契約解除の打診があったのは5月中旬。赤字経営に悩む企業団はこれまで「現状ではPFI事業を続ける意味がない」と分析してきた。さらにSPCに支払う年間約5億円の諸経費もネックになっていた。6月8日に正式な打診を受け、企業団は応諾した。

    ◇

 PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)は自治体の負担軽減を目的に民間の資金や経営ノウハウを活用し、公共施設整備などを行う手法。医療センターの場合、オリックスなどが出資するSPCが医療行為以外の建設や薬品調達、給食サービスなどを担い、契約額は30年間で約2130億円。県・市直営よりも177億円の縮減が見込まれていた。

 しかし、05年の開院以来、医業収益は伸びたが、経費も増加。昨年度の決算見込みでは約21億円の赤字になり、開院以来の累積赤字は約80億円に上った。昨年度末には約7億6000万円の資金がショートし、県と高知市が資金援助する事態に。企業団議会は、企業団に早期の経営改善を迫り、「契約解除も視野に」と圧力を強めた。

    ◇

 不採算でも公共に必要な部門を抱えるため、赤字になりやすい公立病院。PFI事業で期待されたのは、SPCが調達する薬品や消耗品など材料費の削減だった。PFI契約時には医業収益(入院、外来収益)に占める目標比率は23・4%とされたが、開院以来30%程度で推移している。SPCの間渕豊社長は材料費の削減が進まない理由について「入院診療単価が当時の想定より高くなった。高度医療の提供には薬品なども高額になる」と説明する。

 企業団は昨年、国が定めたガイドラインに従い「公立病院改革プラン」策定に着手。11年度の黒字化を目指し、8億7000万円の経費削減を見込んだ。うち6億円はSPC分。材料費削減に加え、SPCが業務を委託する協力企業に支払う委託料削減も求めた。

 これに対しSPCは「ご要請に応ずることは困難」と返答。PFI効果についても「(30年の)事業期間全体を通じて算定するもの」と主張した。委託料削減でも「協力企業側が業務受託の辞退も検討せざるを得ない」との認識を示し、両者の意見は平行線をたどった。

    ◇

 「何の見直しもせずにPFI事業を続けることは困難だ」。今年1月の定例会見で尾崎正直知事は踏み込んだ発言をした。会見の数日前、知事はSPC主要株主のオリックス不動産の西名弘明会長を訪ね、経費削減への協力を要請していた。結論は企業団とSPCが事業体制をもう一度見直す--。実質的に契約は白紙に戻った。

 こうして始まった両者の検討作業だったが、4回目の会合でSPCが撤退を提案し、PFI事業の頓挫が決まった。企業団とSPCは今後、今秋の契約解除基本合意に向け詰めの作業に入る。内容は「金銭的な話が中心になる」(企業団)といい、解約金などの調整を進める。

 公立病院で全国初のPFI解消となった近江八幡市立総合医療センター(滋賀県)の先例では、自治体側に解約金約20億3500万円に加え、建物など施設の買い取り約118億円の費用が発生した。

 山崎企業長は「結局、材料費23・4%の見通しがつかず、契約時の提案はどうだったか、またPFI事業を検証していきたい」。堀見忠司院長は「契約解除によって医療現場や県民に影響することはない。従来通りの診療体制を遂行するので安心してほしい」と呼びかけている。

    ◇

 契約解除について尾崎正直知事は「今後は企業団が直接的に業務を運営し、徹底した経費削減で、安心して利用できる医療センターとして経営改善が進んでいくと考える」とコメント。岡崎誠也市長も「SPCが業務から離れることで企業団の責任と役割がより重要になる。県と連携し、できる限りの支援をしていきたい」との談話を発表した。

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 ■視点

 ◇官と民、信頼関係はあったのか

 「企業団とはパートナーという認識で協議を進めたい」。以前、SPCの間渕豊社長は取材にこう答えていた。しかし、結論は事業からの撤退。契約解除の背景には企業団とSPCの間に考え方の違いがあった。

 端的なのは薬品など材料費の23・4%を巡る議論だ。短期間での収支改善を目指したい企業団は「契約として守るもの」。一方で契約期間(30年)での達成を主張するSPCは「あくまで目標」と応戦した。官民協働をうたうPFI事業。両者の言い分はあるだろうが、打開策を見いだせずに終わり、果たして信頼関係は構築されたのか、疑問が残る。

 「経営改善」という大義名分による契約解除だが、県・高知市直営だからすべてうまくいくとは限らない。山崎隆章企業長も「収益増を図り、いかに経費を削減するかだ」と今後の課題を挙げた。

 県内の高度医療を担う病院として県民に不可欠な医療センター。医療水準の維持は当然だが、「PFIとは何だったのか」を十分に点検し、直営化をきっちりと見据える必要がある。【服部陽】

毎日新聞 2009年6月17日 地方版

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