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【社説】

少年院教官逮捕 これで矯正できるのか

2009年6月17日

 少年院は保護処分となった少年の矯正教育が目的だ。そこで教官が収容者に悪質な暴行を加えるなど、言語道断である。本来のあり方に立ち戻るには、徹底した検証と改革が必要ではないか。

 広島少年院で教官四人が、収容少年に対する特別公務員暴行陵虐容疑で逮捕されたことは、刑務官の消防用ホースによる放水などで受刑者が死傷したとされる、名古屋刑務所事件を思い出させる。

 いずれも法務省所管の、国民の目が届かない施設で起きた。だが少年院は主に、家庭裁判所で保護処分とされた少年に矯正教育を行う点が、刑務所と異なる。

 矯正教育は、少年の必要に応じた教科指導、職業訓練が中心だ。少年の自覚で、社会生活に適応させるのが本来の目的である。

 規律に違反した少年には訓戒、成績の減点や単独室での謹慎といった懲戒を科す。扱いの難しい少年が増えたとの声も強い。

 しかし容疑が事実なら、法に定める懲戒とは到底言えない。

 暴行を受けた少年たちが、規律に違反したかも定かではない。暴行の様子も「じゃあ死ね」と馬乗りになり首を絞めたり、失禁させたり、紙おむつを無理に着けさせるなど、常軌を逸している。教官たちの人格すら疑われる。

 暴行を受けた少年たちの心に、消すことのできない傷跡を残しただろう。これは矯正でも教育でもない。逆に周辺の人々への不信や憎悪を強め、少年院収容がさらに悪い結果を招きかねない。

 異常な暴行を加えた教官は四人だけか。同少年院を管轄する広島矯正管区はすでに四月以来、調査を進めてきたはずだ。検察の立件とは別に、速やかに全容を国民に明らかにし、関係者の懲戒など厳正な処分を求める。

 また広島以外の五十一カ所の少年院、分院で、類似の暴力行為はないか。法務省はこの際、徹底的に究明する必要がある。

 新しい刑事施設受刑者処遇法により刑務所には、外部委員を含む刑務所視察委員会が設けられた。少年院にも同様の組織をつくり、院内の実態を国民にわかりやすくすべきであろう。

 委員には少年法のほか教育、臨床心理、職業指導の専門家などを含む第三者機関とし、定期的に少年と面接し処遇について異議を聴取、教官の資質向上や少年の扱いの改善を求める。少年院側も、委員会への情報提供には全面協力することを義務付けたい。

 

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