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Vol.5 「みんなが好きな韓国海苔巻き」
今回の「ビバ!世界のお弁当パラダイス」は、アジアの食文化に詳しいフード ジャーナリストの平松洋子さんに、韓国のお弁当文化について伺いました。



「お弁当と聞いて、すぐ何を思い出すの?」
ソウルの親友に聞いたことがある。彼女は間髪を入れず、こう答えたものだ。
「海苔巻き!?キムパプです」
キムは海苔、パプはごはん。そうなのだ、韓国スタイルの海苔巻きである。中身の基本は、たくわん、ソーセージ、きゅうり、かにかまぼこ。赤白黄緑それぞれきちんと切った四角の集合体が、海苔巻きのまんなかにきゅっと仲良く並んでいる。海苔にはごま油がさっと薄く引いてあり、その香りの香ばしいこと!幅1.5cmほどに切って頬ばれば、もう止まらない、やめられない。いくらでもお腹に入ってしまう。

そもそもキムパプは、日本から韓国へ伝わった食べ物である。ただし中身は、いつのまにか韓国スタイルに変化した。たくわんは、韓国の人々にとってはまさしく日本のイメージ。しかし、海苔にごま油を塗るのは韓国の味そのもの。つまり、日本と韓国ふたつの国が一本の海苔巻きのなかにちゃんと成立しているのがキムパプなのだ。



手軽につくれて指でつまんで食べられるキムパプは、学校の遠足や弁当には欠かせない。駅弁だって、キムパプがなくては始まらない。ときおり、ソウルから南へ向かう特急で旅をすることがある。私の旅の楽しみは、まず駅でキムパプ弁当を買うこと。車窓の風景を眺めながら、パックのなかにぎっしり並んでいるキムパプと白菜キムチ、カクトゥギなんかを交互に頬ばるおいしさは、もうたまらない。
ふと視線を上げると、あっちの席でもこっちの席でもキムパプ弁当を広げていたりする。やっぱり好きなんだなあ、みんな。さて、そのほかにお弁当は・・となると、ごはんとナムルになるだろうか。青菜、ぜんまい、大豆もやし・・その日のナムルを数種類それぞれ少しずつ詰め、食べるときにごはんと混ぜ、薬念(薬味だれ)をかけて心おきなくピビム(混ぜる)してからスッカラ(スプーン)ですくって食べる。



ちなみに、もともとピビムパプ(混ぜごはん)はお弁当から生まれた食べものともいわれる。その昔、農作業に出かけるとき、ごはんとナムルやありあわせのおかずを携えて行った。お昼どき、全部を混ぜて簡便に食べたのが、ピビムパプの始まりだというのですね。

さて、街角のキムパプ屋では、最近ではカリフォルニア・ロールよろしくチーズ入りやアボカド入りなども出現。もちろんマヨネーズ入りだってあります。そして、コンビニでは、これまで決して見かけなかった焼き肉弁当までお目見えしてしまった。なにもこんなところまで日本文化と似なくても。味やスタイルの傾向が見事に同じ路線をたどっているのは、お隣同士の運命みたいなものなのだろうか。なにもキムパプにマヨネーズはないんじゃないか。少しばかり哀しい思いを味わいながら、韓国の新しいお弁当の行方を眺めている。



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