月給100万円も借金苦、飛行マニュアル売ったパイロット
裁判まで報道される事件なんてごくごく少数。B級ニュースにいたっては皆無と言っても間違いじゃないですよ。そんな小さな事件は、阿曽山大噴火にお任せあれ! ってな訳で今回も報道されてない裁判の話。
まずは事件の概要を。
全日空のジャンボ機操縦マニュアルなどがインターネットオークションで販売されていた事件で、警視庁は同社B767型機長安江浩介(42)を逮捕した。調べでは、羽田空港第2ターミナル内操縦士用自習室から、ジャンボ機(B747−400型)捜査手順書「飛行機運用規程」などを盗んだ疑い。安江容疑者は、航空機用品販売店店員に盗品を15万円で販売。店員は「これでダッシュ400を飛ばすことができます」と記載してオークションで販売していた。安江容疑者は「遊ぶ金が欲しかった」と供述している。
マニアの世界は恐ろしい・・・。普通の人々は何でもない物が、見る人によっては価値があるんだからね。しかも「これでダッシュ400を飛ばすことができます」ってすごいね。飛ばせないでしょ? キャッチコピーとしては秀逸だけどさ。
一番驚きなのが、マニアが欲しがるジャンボ機の取り扱い説明書を盗んでいたのが、マニアが羨むパイロット、と。パイロットは給料いいでしょう。なのに「遊ぶ金が欲しかった」とはなぜ?
ということで11月15日に簡易裁判所で行われた安江浩介被告の初公判です。まずは弁護人からの被告人質問。
弁護士「あなたは盗んだ物を売って、いくら手に入れたんですか?」
被告人「15万円受け取りました」
弁護士「そのお金の使い道は?」
被告人「ローンの期限が迫ってまして、そのお金で支払いました」
弁護士「あなたは株に手を出し、マンション投資にも失敗して借金があったんですよね?」
被告人「はい、そうです」
弁護士「月々の収入はどれくらいあったんですか?」
被告人「給料は手取りで100万(円)ありました。でも、株でつくった借金の返済が50万(円)、マンション投資の返済が40万(円)。それに家のローンと生活費で、毎月15万円くらいのマイナスでした」
弁護士「なるほど。今回の件で、仕事の方は懲戒免職になりましたけど、もし、退職金がもらえたとしたら、いくらだったんですか?」
被告人「2000万(円)ほどだと思います」
弁護士「毎月100万円の収入と2000万円の退職金の引き換えに得たのが15万円。代償は大きすぎるねぇ・・・」
原因は借金苦でした。遊ぶ金欲しさではなかったみたいです。ホントの理由は裁判を傍聴しないと分からないもんだ。
他には、自習室に鍵はかかっておらず誰でも出入り可能だったこと、コピーする際に「飛行機運用規程」を持ち出すのは普通のこと、以前にも紛失したことがあったけど、すぐに補充されたことなどの証言もあって、そんなに悪質な容疑ではなく、重要な品物ではないと、弁護士は主張してました。
そして検察官からの質問です。
検察官「こういう物を売ったら、ネットオークションとかに出品されると思わなかった?」
被告人「航空マニアにとって、マニュアルを持つことがステータスと聞いています。でも、オークションに出品されるとかは考えてませんでした」
検察官「結局、30万円出して落札したのは全日空の社員なんですけど、なぜだか分かってますよね? 世間で出回っては困るからですよ」
と「飛行機運用規程」が大事な品物であると主張していました。そして、
検察官「多額の借金があるようだけど、弁護士に相談しようと思わなかったの?」
被告人「よく分からなかったもので・・・。まだ借金は残ってますので専門家に相談します」
検察官「そうですね。だってねぇ、人命預かってる人がさぁ『借金どうしよう』なんて考えてたとはねぇ」
ジャンボ機のパイロットが「地に足がつかない」状態で操縦していたとは、あまりに皮肉すぎる。被告人は「自分にはパイロットしかないので、他の会社を探している」と述べてました。別の会社で同じようなことをしなけりゃいいんだけど。
求刑は懲役2年。判決は11月24日に下されます。
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