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感染症は「正しく怖がって」―新型インフルと「心のケア」

6月14日17時18分配信 医療介護CBニュース

感染症は「正しく怖がって」―新型インフルと「心のケア」
国立感染症研究所感染症情報センターの安井良則主任研究官
 「皆さんの協力で、貴重な情報を得られた。ありがとう」―。新型インフルエンザ感染者の集団発生で学校閉鎖になってから2週間後の6月1日、学校を再開した関西大倉学園の全校集会で、国立感染症研究所感染症情報センターの安井良則主任研究官が講演し、生徒らに呼び掛けた。講演の目的は、生徒たちの「心のケア」。集団感染が発覚して以来、同校への誹謗中傷が相次いでいたからだ。神戸と大阪で積極的疫学調査にかかわり、複数の学校を訪問した安井研究官は、「感染した人が悪いのではない。感染症を不必要に怖がる必要はないし、『正しく』怖がるべき。病気に対して粛々と対応していけばいい」と話す。

 関西大倉学園は大阪府北摂地域の中高一貫校。5月17日までに64人の新型インフルエンザ感染が確認された。学校は閉鎖され、「関西大倉学園」の名前は連日報道された。

 「今でこそ、季節性インフルエンザとあまり変わらないといわれているが、当時はどんなウイルスなのか、どんな影響があるのか分からない状況だった」と、同校の大船重幸教頭は振り返る。「防護服を着た人たちに突然、連れ出されることになった生徒や、家族全員が1週間、自宅で缶詰めになった生徒もいた。これを思うと言葉にならない」。同校が「ウイルスをばらまいている」といった誹謗中傷も後を絶たず、学校関係者のタクシーの利用や、制服のクリーニングを断られることもあったという。
 学校の再開前には、校内の消毒もした。「専門家から、(ウイルスは既に死滅しているので)消毒の必要はないと聞いており、意味がないということも分かっていた。しかし、こういう風潮の中では、やらざるを得なかった」。

 安井研究官が同校を最初に訪れたのは5月17日。積極的疫学調査を行うためだった。安井研究官は学校側の協力を得て、感染者の情報収集や家庭訪問を実施。症状の特徴や感染ルートなどの情報が得られたが、「生徒が近所で『関西大倉学園の生徒だ』と言われるような状況だった」という。感染者が出たほかの学校も訪問したが、校長はじめ学校関係者や生徒の家族の多くが「誹謗中傷」されている状況。ある学校の校長は、心労で声が出なくなってしまっていたという。「絶対にあってはいけないことだ」(安井研究官)。

■「誰が悪い」というのはナンセンス
 関西大倉学園の生徒への講演は、安井研究官自身が同校に対して頼んだことだった。「校内で新型インフルエンザが流行したことで、生徒はみんな不安に思っていた。誹謗中傷もあった。心に傷を抱え、2週間頑張って自宅待機していた子どもたちに、何とかメッセージを伝えたいと思った」という。
 学校側も専門家による説明を歓迎した。大船教頭は「生徒は不安を抱えていたと思う。安心感を与えることが一番の目的だった」と話す。

 こうして迎えた1日の全校集会には、安井研究官のほか、同研究所の岡部信彦・感染症情報センター長も駆け付けた。安井研究官は新型インフルエンザについての科学的な説明をした上で、「この学校だから流行したわけではない。なぜか(新型インフルエンザが)高校生の間で流行していて、それがたまたま入り込んだだけ。入り込んでしまったら、感染が広がるのは全然不思議ではない」「感染症では、『誰が悪い』などと考えるのはナンセンス。誰も悪くない。胸を張って、これから人生を歩んでほしい」と呼び掛けた。
 岡部センター長は「皆さんがインタビューに答えてくれたおかげで、症状の分析ができた。これまでわたしたちが得ていたのは、米国やメキシコの状況に関する情報だったが、自分たちの状況が自分たちの手で分かってよかった。この情報はきちんとした形でWHOなどに報告する」と謝意を表明。安井研究官も、「この情報は世界中の多くの人たちの役に立つ。2週間本当によく頑張ってくれた」と語った。

 「関西大倉学園に何か問題があったわけでも、自分たちが悪かったわけでもない。そういう話を丁寧にしてもらえてよかった。効果は抜群だったと思う」と大船教頭。講演後、体育館には生徒らの拍手の音が鳴り響いた。

     ■   ■   ■

 安井研究官は「インフルエンザが日本に入ってきたことに対し、粛々と対応する。それでいいと思うし、それ以上ではないと思う」と話す。「感染症を不必要に、過剰に怖がる必要はない。『正しく』怖がってほしい」。風評被害が広がると、疫学調査で患者から協力を得ることが難しくなる可能性もあるという。
 「忌み嫌うというのは、ある意味、怖いからやっているのだと思う。だが、それはやめてほしい。感染症に立ち向かっていかなければならない」。


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最終更新:6月14日17時18分

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