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広島少年院教官逮捕 全容解明し信頼回復を '09/6/10

 東広島市の広島少年院の法務教官4人がきのう、特別公務員暴行陵虐容疑で広島地検に逮捕された。少年たちに対する暴力は常態化していた疑いがあるという。

 罪を犯した少年の心に寄り添い社会復帰に向けて立ち直るきっかけを与える。こうした少年院の本来の役割からは、かけ離れた実態があったようだ。

 法務省広島矯正管区は謝罪し、「捜査に全面的に協力する」とした。ただ事実の解明を地検任せにするようでは十分といえまい。外部の目も交えて徹底的に調査し、全容を明らかにすべきである。

 4人の少年を被害者とする容疑の内容には、驚かざるを得ない。洗剤を無理に飲ませようとしたり、トイレに行きたいと言う少年に紙おむつをはくよう強制し、他の少年にその様子を見せたり…。「死ね」と暴言を吐いて転倒させ、両手で首を絞めたこともあったという。

 これが指導なのか。「鉄拳制裁」ももちろん許されないが、その域をはるかに超えた異常さは虐待にほかならない。

 事態が分かったのは、4月上旬である。暴行を受けた少年が別の教官に訴えたのがきっかけだ。矯正管区の先月の中間報告では、昨年度だけで収容中の少年約100人のうち約50人に対して暴行があり、主にこの教官4人が関与していた。違法性が疑われるケースは約100件という。その多くが指導中に起きたとみられる。

 閉鎖的な空間とはいえ、これまで発覚しなかったのはなぜか。他の職員は知らなかったのか。もっと長い間、続いていたのではないか。疑問は膨らむ。

 7年前には米子市の少年院でも教官9人が暴行を繰り返して懲戒処分になった。法務省は各施設に再発防止を求めた。教訓が生かされなかったばかりか、少年院としては過去に例のない不祥事になる可能性がある。

 保護者ら関係者へもきちんと説明するとともに、被害者への心のケアも急ぐ必要がある。

 実は広島少年院は、新しい矯正教育のモデルとして、全国から注目されていた。近年、非行に走った少年への指導は難しくなっている。複雑な家庭環境が背景にあるケースも増えたからだ。その中で自尊心を大事にし、きめ細かい指導でコミュニケーション力を高める取り組み。2年前、安倍晋三首相(当時)も視察に訪れた。

 それだけに事件とのギャップには首をひねる。組織としての人材育成や指導にも、問題があったのではないだろうか。

 法務省は、全国の少年院で同様の暴力がないかの調査を始めている。当然のことである。人権侵害をチェックする第三者委員会も、少年院にはない。検討を急ぐべきだろう。

 少年院から社会に戻り、かつての教官を家族同様に慕う人も少なくない。事件はこうした長年の信頼を裏切った。うみを出し切り、矯正教育全体への警鐘とすべきであろう。




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