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国連制裁決議―日本がすべき事を冷静に

 北朝鮮に対する制裁決議が国連安全保障理事会で採択された。2度目の核実験からまもなく3週間。時間はかかったが、国際社会としての強い意思を、全会一致で示せたことを高く評価したい。

 北朝鮮には、国連加盟国として決議を受け入れる義務がある。即刻、核を放棄し、弾道ミサイル開発も中止しなければならない。しかし、現実はそうなるどころか、逆方向に動いている。

 北朝鮮は決議の採択に反発し、新たに抽出するすべてのプルトニウムを兵器化する、ウラン濃縮にも着手すると表明した。さらに「封鎖されれば戦争行為とみなす」と激しく牽制(けんせい)した。北朝鮮の挑発と国連による対北措置の応酬が続くことになるかもしれない。

 決議の目的は、北朝鮮の核兵器やミサイルの開発をやめさせることだ。軍事的な衝突を避けつつ国際協調に基づく「圧力」を通じて実現させなければならない。そのためには各国が結束を一層強め、粘り強く取り組む。それが最も現実的な道である。

 決議の実施に日本はどう参加すべきか。政府や各党では、海上自衛隊や海上保安庁による公海上での船舶検査が焦点になっている。

 現行の船舶検査活動法は、日本への武力攻撃の可能性がある「周辺事態」が前提だ。そのため、周辺事態という認定がなくても検査活動を可能にする新法を求める声が、自民党や民主党内に出ている。政府も検討を始めた。

 日本にとって北朝鮮の核兵器やミサイルが、重大な脅威であることはいうまでもない。日本は今回の決議づくりに積極的な役割を担った。必要とあれば決議に盛られた措置を行えるように法整備を考えるのは当然だろう。

 決議が各国に要請しているのは、核兵器関連物資など特定の禁止品目を運んでいると「信じるに足る合理的情報がある」船舶の検査である。しかも「その船が所属する国(旗国)の同意」という条件も付いている。

 情報を得て出動するが、その貨物船が検査に応じなければ後を追う。近くの港に入った段階でその国が検査する。そんなイメージだ。

 問題は、こうした目的を果たすために現行法をどう使うか、どこまでの新たな法整備が必要なのか、現実的な有効性の面から冷静に検討することだ。

 そもそも憲法9条の下で、どのような国連決議があっても、日本が自国の防衛以外の目的で軍事力を行使することはあってはならない。そうした大原則の下で、今回の決議を有効にするために何ができるかを考えたい。

 自民党の一部には、この新法づくりを野党の分断や解散日程の先延ばしの口実にしようとするかのような空気もうかがえる。党利党略に走っているときではない。

納税者番号―導入へ不安解消の議論を

 政府が納税者に番号を割り振り、所得や金融取引などを一括して把握する納税者番号について、自民党が検討を続けている。昨年末に閣議決定した社会保障と税制改革についての中期プログラムにも「納税者番号制度の準備」が盛り込まれた。

 一方の民主党も、減税と低所得者への給付金支給を組み合わせる給付つき税額控除の導入に向け、「所得把握のための番号制度」を考えている。

 ほころびが目立つ社会保障を立て直すには、所得や資産を正確につかむことが欠かせない。そうすることで、公的支援の必要度が判断できる。支援の規模が大きくなればなるほど、公平に課税する必要も高まる。

 納税者番号制が導入されると、預貯金や証券を取引するときに自分の番号を示す。税務署は、取引先から報告される取引内容と番号を使って個人ごとに所得や預貯金の動きを正確に把握することができる。

 源泉徴収制度のもとで給与所得が100%把握されるサラリーマンと自営業者や農家の間には、所得の把握度に差がある。番号制はこうした問題の解決に万能とまではいえないが、最強の4番打者になることは間違いない。

 多くの国が納税者番号にあたる制度を設けている。米国では早くから社会保障番号を税務や社会保険、年金、兵役に使っている。個人登録番号として発達した北欧も税務、社会保険のほかに住民管理や教育に利用している。

 1989年から9ケタの納税者番号を導入している豪州は、税務や所得保障に利用しているが、番号を受け取らない自由も納税者にはある。ただし、その場合は最高税率が適用される。

 日本でも、預貯金を把握する「グリーンカード」という番号制の導入をいったんは決め、80年に法律ができたが、実施しないまま廃止してしまった。所得や資産を丸裸にされるという反発が事業者などに強かったからだ。

 所得を正確につかめば、「給付つき税額控除」のような中・低所得層を支援する制度をつくりやすい。所得が一定額より低い人々に給付金も出せる。

 納税者番号制には管理社会化の一面はある。しかし、社会保障を充実させるには、乱用の防止を前提にして導入せざるを得ないのではないか。

 そのためには、プライバシーの保護という避けられないハードルがある。これを乗り越えない限り、人々の抵抗感は取り除けない。

 与野党は、納税者番号の目的外利用を厳重に禁止したり、年金記録で発覚した「のぞき見」やデータ流出・悪用を防ぐための監視組織を設けたりする仕組みを早急に考える必要がある。

 具体化のためには、国民の不安を取り除くための環境整備をていねいに進めることが欠かせない。

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