2009都議選
都議選告示が7月3日に迫った。予想される選挙戦の動きを逐一お伝えする
【社会】イラク戦争の傷跡なお フォトジャーナリスト 豊田さんルポ2009年6月13日 夕刊 イラク戦争で米軍が放射能兵器「劣化ウラン弾」を大量投下した地域では今なお、がんや白血病の発症率が増加している、という。劣化ウラン弾の非人道性の告発を続け、今年五月、イラク南部の中核都市・バスラで開催された「国際がん学会」に参加したフォトジャーナリスト豊田直巳さん(53)=東京都東村山市=が、子どものがん治療に取り組む母子病院の姿を報告する。 バスラの母子病院を訪ねるのは六年ぶりになる。産科小児科の専門病院として四百床余のベッド数を誇るこの病院にはイラク戦争以前から何度も通った。二十四床のベッドを有するがんや白血病の専門病棟は、一九九一年の湾岸戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾との関係が、強く疑われる子どもたちでいつも満床だったからだ。 当時の病院は経済制裁による慢性的な薬不足に医師も患者の親たちも悩まされていた。二〇〇三年のイラク開戦から四カ月後、再び劣化ウラン汚染の取材を兼ねて訪ねたときも、サダム政権の崩壊、多国籍軍の統治の失敗による混乱から満足な治療薬もないままに、新たな子どもたちでベッドは埋まっていた。 力なく横たわる子どもにカメラを向ける私を「写真ではなく、薬が欲しいのです」と詰問した母親の悲しみの表情を思い出す。 今回の訪問で医療の再建を目指すイラクの医師たちの努力が、少しずつだが実を結んでいるのを実感した。壁が塗り替えられた病棟は清潔になったし、患者全員が感染予防のマスクを付けていた。治安悪化や政権内部の腐敗で政府からの医療品供給はゼロ、海外非政府組織(NGO)からの支援も乏しかったころに比べ、最悪期は脱したのかもしれない。 しかし、担当者が「保健省からは必要量の一割しか届きません」と嘆く医薬品不足が深刻なことに変わりはない。医療機器も絶対的に不足している。 四年前にがんで右目の摘出手術を受けた十五歳の少女サーブリーンちゃんは、再発の際、隣国イランに行き放射線治療を受けたという。その費用を日本のNGOが支えたため「日本の皆さんのおかげです」と笑顔で私を迎えてくれた。 素直な喜びに浸れなかったのは、彼女の背後には治療を受けられず、多くの子どもたちが死んでいく現実があるからだ。疫学調査を実施する余裕のないイラクでは「数を正確に把握することは不可能だ」と医師らは言う。だが、がんや白血病を発病する子どもは、確実に増え続けていると感じている。 それが投下された劣化ウラン弾の影響なのか。根本の原因は、正確には「不明」だ。バスラで五月に開催された「第一回バスラ国際がん学会」に訪れたイラク保健相は、私の質問に慎重な言い回しでこう答えた。 「私たちは九一年と〇三年の二回、劣化ウラン弾の被害を受けました。一方、イラクでは、特に南部地域でがんの発症率が上昇しています。がんの増加は劣化ウラン弾と関係があるのか否か、学会で科学的に証明されることを望んでいます」 だがイラクの現状では、そのような研究もすぐには進まないだろう。内戦の混乱が続く中、医療現場の取り組みを継続し、発展させるためにはまだまだ国際的支援が必要なのだ。問われているのは、この戦争に加担した私たち“国際社会”の責任なのだと思う。
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