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最終回 VSサンフレッチェ広島戦 |
今年2000年限りで川崎市から東京都へとホームタウンを移すことになったヴェルディ川崎。緑の軍団は“ありがとう川崎"という文字をユニフォームの右袖に付け、今シーズンを戦ってきた。そして11月26日、リーグ戦最終節であり、川崎ラストゲームを迎えたのだが、試合の方は1-2の惜敗。1stステージ9位、2ndステージ10位となり、年間総合順位も10位で終わってしまった。とても残念な結末だが、熱烈サポーターは来シーズンも声援を送り続けることを強く誓っている。 |
「'93年のJリーグ開幕時の熱狂、'94年のチャンピオンシップ連覇、'95年2ndステージで柏レイソルを下して優勝を決めたシーンとか、今でもあの当時の記憶が残っている。13歳の時から20歳になった今日まで、ヴェルディ川崎がいつもボクの生活の中にあった」 そのヴェルディ川崎がなくなってしまう。この試合はJリーグ2ndステージ最終戦であると同時に、来季から東京に移転することが決まっている緑の軍団が等々力陸上競技場で行う最後のホームゲーム。それを思うと、斉藤さんは寂しくて寂しくで仕方がなかった。 「つまり、“ヴェルディ川崎"という名のチームがなくなっちゃうわけでしょ。人生を語れるほど長く生きているわけじゃないけど、ボクにとって今日の最終戦はひとつの時代が終わるのと同じことなんですよ」 斉藤さんとともにやって来た石谷領介さんも同じ思いだ。彼もまた、斉藤さんと同じく、Jリーグ誕生時からヴェルディ川崎を応援し続けてきたサポーターだ。 「ふたりでよく等々力競技場に来たんですよ。そのヴェルディが川崎からいなくなっちゃうと思うと、寂しい気持ちでいっぱいです。でも、だからこそ、今日の最終戦はビシッと決めてほしい」 それはこの日、スタジアムを訪れたすべての人々の思いでもあったかもしれない。スタンドには緑の戦士たちを鼓舞する38枚の横断幕が掲げられ、サポーターの数もいつもより多い。選手たちのプレイひとつひとつにどよめきも起きた。観客の数は6948人と決して多くはないのだが、シーズンを通じてあまり見ることのなかった熱気が、この日の等々力陸上競技場にはあった。 「いつもよりも“ヴェルディー、カワサキ!"と連呼する声が多いと思いません? やっぱり最後だから気合入っているのかなぁ」(斉藤) そんな声援に後押しされて、川崎ラストゲームを戦う緑の戦士たち。2ndステージ再開以来、消化不良の試合が続いていたが、この日は石塚啓次らの動きが良く、中盤に安定感があった。 しかし、先制したのは広島。間接FKからボールをつながれ、最後は久保竜彦が右足でシュート。後半4分に喫した失点だった。 「ボールを支配しているんだけど、全然、怖さがない。このままじゃせっかくの川崎ラストゲームが凡戦のまま終わっちゃう。最後なんだから何とかしてほしい」(石谷) この石谷さんの願いが届いたのか、79分に意地の一発が炸裂。石塚からのFKを、ゴール前に走り込んでいたキャプテン・米山篤志が頭でドンピシャリと合わせた。その瞬間、斉藤さんは立ち上がって大絶叫。拳を握りしめながら、興奮を隠せなかった。 「“川崎ラストイヤー優勝”も見たかったし、少しでも順位が上の方がいい。でも、それ以上にボクが見たかったのは、これですよ、これ。ゴール、そして、そのゴールに観客が一緒になって熱狂できること。久しぶりに鳥肌が立つゴールですよ」 確かに米山のゴールはいつもと何が違った。DJ・西尾さんの絶叫、盛り上がる客席、喜びを爆発させる選手たち。ほんの一瞬だが、スタジアムがひとつになった気がする。3月11日の1stステージ第1節から今季のヴェルディ・ホームゲームを追いかけてきたが、まさに初めて見る光景だった。それだけに最後は勝利で締めてもらいたかったが、勝負の世界は非情だ。 延長6分、一瞬のスキをつかれたカウンター攻撃から最後はまたしても久保に決められ、痛恨のVゴール負けを喫してしまったのだ。 この結末にスタンドは沈黙。斉藤さんと石谷さんも席を動けない。何よりも、試合直後に行われたセレモニーに参列する選手たちの表情が、その悔しさを物語っていた。 だが、いつまでもうつむいてはいられない。そう語りかけるように、ひとりの男がマイクを握った。北澤豪だ。 「この8年間を思うと、川崎市に対しては感謝の気持ちでいっぱいです。この等々力競技場で戦えたことをボクたちは誇りに思っています。ここにはヴェルディの一員として戦ったすべての選手たちの魂が宿っています。その選手たちがやり抜いたことをどうか忘れないでください。来年から東京に移りますが、ボクたちもここで刻んだ歴史を忘れません。そして、ここで刻んだ歴史を傷をつけることのないように、これかも精一杯頑張っていきます」 そうなのだ。確かにヴェルディ川崎の歴史は終わってしまうが、それは新しい歴史の始まりである。この北澤の言葉に、斉藤さんも感極まった表情を浮かべずにはいられなかった。 「最後の最後にいいことを言ってくれますよね。川崎を離れてしまうことに寂しさは感じますけど、あんな言葉を聞かされちゃったらますます愛着が沸いてくる。東京に移転しても、ヴェルディはヴェルディなんですよ。“ひとつの時代が終わる"って言ったさっきの言葉、撤回します。ボクはこれからもヴェルディを応援していきたい。だって、いろんな思い出をくれたチームですもん。これからももっといろんな思い出を作っていかなきゃ」 8年いう歳月は決して長くはない。しかし、その短い歳月でも人々に思い出を与え、その心をとらえて離さない力が、サッカーにはある。ヴェルディにはある。斉藤さんの言葉はもちろん、この11ヵ月続いた熱血サポーターリポートを通じて、それを改めて実感した。 来年から『ヴェルディ東京1969』として、新しく生まれ変わる緑の軍団。今度はどんな思い出をサポーターたちに与えてくれるのだろうか。その思い出は十人十色だろうが、これだけはハッキリしている。思い出はいつまでも色褪せない。そして、その思い出が人生をより豊かなものにしてくれるはずだ。 そんな素晴らしい宝物を探しに、これからもスタジアムに足を運んでみよう。21世紀とともに始まる緑の軍団の新しい歴史。今度はアナタがその歴史に参加する番だ。 取材・文:慎武宏 |
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