新生児や妊婦の命を守る周産期医療。実は山梨県は全国でもトップレベルの水準を維持している。しかし、国立病院機構甲府病院の新生児集中治療室(NICU)の病床数が6から3に削減される見通しとなり、県内の周産期医療の環境は大きく変わりそうだ。【沢田勇】
「ピーピーピー……」
県立中央病院(甲府市)の「総合周産期母子医療センター」のNICUでは、アラームが頻繁に鳴る。その都度、看護師が慌ただしく保育器に駆け寄り、異常がないか確認する。透明なカバーに覆われた保育器の中では、手のひらに乗るほどの小さな赤ちゃんが手足を動かしていた。人工呼吸器を付けられた、体重わずか500グラムの未熟児だ。
部屋に9台の保育器が並ぶ。窓のカーテンは日中も閉められたまま。薄暗くして胎内にいるような安心感を新生児に与えるためだ。
新生児はナースコールを押せない。医師と看護師が常に注意を払わなければならず、張りつめた空気が漂う。
夜間の当直医は1人だが、容体の悪い新生児がいる場合は、6人の医師全員が未明まで残ることもある。
「帰れば赤ちゃんが死んでしまうかもしれない。居ざるを得ないのです」。同センター新生児科の内藤敦医長は話す。
看護師も同じだ。加藤京子・同病院主任看護師長は「NICUは高度の技術や知識が要求される。多くの機器に気を配り続けるのは心身共に緊張を強いられます」と話す。
NICU9床の稼働率は95%。常に満床に近い状態だ。現在非常勤1人を含む医師6人と看護師34人が24時間体制で勤務する。
◇ ◇
厚生労働省の人口動態統計によると、山梨県の周産期死亡率は07年3・0(1位)、08年3・2(2位)と、全国トップクラスの低さを誇る。だが、00年代初めまではずっとワーストレベルだった。それが06年(3・7)に3位に急浮上。以降、トップレベルを維持するようになった。
県医務課の山下誠課長は要因として、この総合周産期母子医療センターが設置されたこと、他県に比べ人口当たりのNICU病床数が多いことを挙げる。
同センターは01年開設。NICUに加え、母体・胎児集中治療室も備えた県内唯一の施設だ。これで県内のNICUは一気に9床増え、15床となった。
国立甲府病院も04年に3床増床し、市立甲府病院(3床)を合わせて県内18床となった。07年の厚労省の調査によると、人口や年間出生数が山梨とほぼ同じ佐賀県は3床、福井県は9床しかない。
ところが、5月27日、国立甲府病院のNICUが6床から3床に削減されることを横内正明知事が明らかにした。日大医学部から派遣されている医師2人が9月末に大学に戻されるためだ。
これを受けて県は周産期医療協議会を開いて対策を検討。県立中央病院を3床増やすことで、県全体のNICUベッド数を維持する方針が決まった。
しかし、同病院の内藤医長は「ベッドが増えるなら、スタッフも増やさなければ意味がない」と指摘する。
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■ことば
周産期(妊娠満22週から生後7日未満)の胎児・新生児の死亡数を年間の総出産数(死産と出産の合計数)で割り、1000例当たりで換算した値。母子保健の重要な指標となっている。
毎日新聞 2009年6月12日 地方版