2009年6月8日11時28分
4日の決勝ラウンドで演奏する辻井伸行さん=米テキサス州フォートワース、バン・クライバーン財団提供
米テキサス州で7日、バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝し、写真撮影に応じる辻井伸行さん(中央)=AP
【ニューヨーク=田中光】生まれつき全盲の辻井伸行さん(20)が7日、米国のバン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した。幼いころから「神童」と注目を集めてきたが、世界タイトルは初めて。中国人男性とともに2人が1位となった。辻井さんはテキサス州フォートワースの会場で「両親をはじめ、サポートしてくれたみなさんに喜びの気持ちを伝えたい」と語った。
コンクールでは、ショパンなどの曲目をこなし、「神業」と評価を得た。弦楽四重奏との演奏では、頭を振って息を合わせ、最終日の演奏が終わると、何度も「ブラボー」の歓声がわき起こった。
「とにかく自分の力が出し切れたので幸せです。お客さんが感動してくれたのが一番うれしい。テキサスの観客はとても温かかった」と辻井さん。全盲というハンディについては「障害者というより、一人のピアニストとして聴いてくれた手応えがあるので、それがとてもうれしい」と話した。
辻井さんは4歳からピアノを習い始めた。音に対する感覚が鋭く、先生が左手と右手に分けて演奏した録音テープを繰り返し聴いて曲を覚えた。筑波大付属盲学校小学部に入学した95年、7歳で全日本盲学生音楽コンクールの1位になり、97年にはモスクワ音楽院大ホールの記念コンサートに出演。00年には台湾でリサイタルを開き、さらに米カーネギーホールの演奏会に出演するなど、国内外で多彩な演奏活動を重ねてきた。東京音大付属高校を経て、現在は上野学園大学3年生。
高校卒業まで12年間指導した東京音大講師の川上昌裕さんによると、辻井さんの父親は医師で、家族で特に音楽と関係が深い人はいない。2歳のころからおもちゃのピアノで遊んでいて、母親が口ずさんだメロディーを正確に弾いたことに家族が驚き、ピアノを習わせることにしたとの逸話がある。
マイナスのことを口にしない明るい性格で社交的。コンクールに次々と挑戦する気の抜けない生活が続いてもくじけることなく、前向きに取り組んできたという。
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