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看護職、「専門職」と「労働者」のはざまで

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【第64回】奥村元子さん(日本看護協会・看護職確保定着推進戦略プロジェクト次長)

 日本看護協会は、昨年に相次いだ2人の看護師の過労死認定を受け、看護職の時間外勤務や夜勤・交代制勤務などの緊急実態調査を行った。調査では、交代制勤務において時間外勤務が月60時間を超える過労死危険レベルの状態にある看護職は全国で約2万人と推計された。同協会で「看護職確保定着推進戦略プロジェクト」の次長を務める奥村元子さんは、看護職について「専門職であることと、労働者であることのせめぎ合いの中にある」と表現し、国民を守るために24時間対応を求められる医療現場の中で働く看護師を、労働者として守っていく必要性を訴える。今、看護師たちの現場で何が起きているのか―。(津川一馬)

―現在の看護師の勤務実態について、昔と比較してみるとどのような印象を持っていますか。
 
わたし自身は看護職ではなく、看護協会の中で数字を通して現場を見てきた立場です。今の医療現場は業務密度が高くなって、仕事がきつくなっています。例えば、患者さんの入退院の間隔が短くなる一方で、一人ひとりに投入される医療の量が多くなっています。患者さんの多くはご高齢で、すべてに人の手を借りなければならないことがあります。
 このような状況に、例えば20年前の看護スタッフの陣容で対応できるかと言えば、それは難しいと思います。陣容というのは数だけではなくて、一人ひとりに求められる能力もより高いものになっているのです。

―医療機関では、看護師だけでなく、医師についても過労の問題があります。医療現場というのは、構造的に過労という状況になりやすい構造になっているのでしょうか。
 
入院だけでなく、外来や救急部門も24時間の対応を求められるということになると、その働き方は特殊なものになっていきますよね。そういう時間的な特殊さと共に、やはり人の命を預かるという緊張感、重い責任を伴うということがあるので、これが相まっての大変さというのは、医療に非常に特徴的だと思います。

 看護職の場合は交代制勤務をしながら、時間外勤務が発生します。朝から出勤して、夕方に仕事が終わる一般の方の時間外勤務と、夜中に働く日がある中で、それにまた時間外勤務があることは、全く意味が異なります。生活のリズムは非常に不規則なものになり、疲労の回復を妨げます。
 
―日本看護協会は4月に、「時間外勤務・夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」結果を公表しました。この中で、「過労死危険レベル」の看護師が全国に2万人と推計していますが、この数字を見た時、どう感じましたか。
 
多いと思います。これが1万人だったらいいのか、3万人だったらもっと大変なのかという意味ではなくて、「万」のレベルになるというのは、社会全体で考える必要があるレベルだと思います。

―調査結果ではこのほかにも、超過勤務に対して手当が払われていない、いわゆる「未払い残業」の問題も示唆していました。
 
超過勤務を把握すれば当然、超過勤務手当は払わなければなりませんが、超過勤務についての考え方が、現場で非常にあいまいなところがあるのではないかと思います。例えば、勤務開始時刻より前に出て来て、患者さんの情報収集をすることは、業務の一環と解されますが、現場では見解の相違があるわけです。「あなたが勝手に早く来て、患者さんの情報を見ていたのだ。それは業務とは認めない」という意見です。
 新人のうちは残業代を付けないことになっているという話もあります。ベテランになって能力があれば、残業しなくて済むような仕事を、新人がいつまでも残って働くのは、「あなたの能力がないからでしょう。そんなことに残業代は付けない」などと言う風土がまだあります。
 個人的には、専門職であるということと労働者であるということのせめぎ合いの中に、看護職があるという気がします。自律的な専門職としての働き方をしたいということと、労働者として守られなければならないということの両立をどうするか。日本の看護界はここ60年、苦しんで、努力して、何とかしようとしてきたのではないかと思います。その一つの答えが交代制勤務で、チームで交代しながら働くことで、自分たちを守ってきたのです。
 そもそも交代制勤務自体は、終業時刻になったら次のシフトに渡して、残業しないのが本来の姿です。それでも残業があるというのは、仕事の仕方に問題があるか、仕事の量と人員が見合っていないのではないでしょうか。

―医療事故への不安感と疲労の関係性についても、相関関係が調査結果の中で浮き彫りになりました。実際に看護職の疲労が「ヒヤリ・ハット事例」や医療事故につながっているのでしょうか。
 
不安を具体的に感じているということと、実際に事故を起こした、あるいは「ヒヤリ・ハット事例」につながったということは、直ちにイコールではないと思います。事故を起こさないよう、必死になって踏みとどまっているのです。

 疲労を一番感じているのは20代です。この原因は二つあるだろうと思います。まず、非常に経験の浅い新卒から3年目までの新人たちが、業務に慣れていくプロセスの中で、新しいことに日々遭遇して、その中で一生懸命やるのだけれども、まだうまくできず、自信が持てないということ。
 もう一つは、20代後半の少し中堅になった人たちが、すぐ上の30代世代が出産・育児の適齢期に入り、夜勤や時間外勤務が免除され、あるいは育児休業を取るのを支えるために、業務負担が増しています。

―日本看護協会は調査結果を踏まえて、時間外勤務を減らすことや有給休暇の取得促進などを医療機関に訴える「ナースのかえる・プロジェクト」を発足させるなど、取り組みを始めていますが、ポイントになるのはこうした働き掛けに対して、現場がきちんと受け止めて改善のために動くかどうかではないでしょうか。

 
二つの壁があると思います。看護管理者と経営者の意識の問題と、保険医療財政の問題です。
 看護管理者に労働時間管理の問題の原因を聞いてみると、トップが「長年の慣例・習慣」でした。職場風土の問題であり、これを打ち崩していくことは並大抵のことではないです。
 しかし、新規の採用は簡単ではありませんし、年度途中の採用も非常に難しくなっています。手をこまねいていれば、人は辞めていき、職場の欠員が埋まらず、残った人たちにますます過重な労働を強いることになります。
 病院経営者には、目先の人件費にとらわれず、将来を見越した人材への投資という考え方を持ってほしいと願っています。専門職の経験や知識を退職でみすみす失わないようにすることが、組織にとってメリットになるという考え方ができるかどうかがポイントです。既に看護界は、人材を無駄遣いできるような状況にないのです。

 医療機関にとって厳しい経営環境であることは承知の上ですが、「医療経済、経営が厳しいから法令違反は仕方がない」と開き直るのでは、医療財源確保に世間が後押しをしてくれるとは思えません。国民は安心して医療を受けたいと考えており、疲れ切った医療従事者に診てもらうことを望まないでしょう。経営が苦しい中でも、それぞれ襟を正して、改善に向かうという姿勢をまず示す必要があります。こうした現場の取り組みを日本看護協会として後押ししていきたいと思います。

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更新:2009/06/06 10:00   キャリアブレイン

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