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オトガメなし(石坂 啓)

 なぜ石原慎太郎さんは非難されないのだろう。

 ムチャクチャなことを言ってる。年輩の女性に対して「ババァ」。中国に対して「支那」「三国人」。若者が「中身がスッカラカン」なのは「60年間戦争がなかったから」だとか。「勝つ高揚感をいちばん感じるのはスポーツなどではなく、戦争だ」。

 人気があるらしい。往年スターの兄だからか。背が高いからか。市民の気分を代弁してスカッと言ってのけてくれるからか。でもカシコいことは何も言っていないぞ。彼が居酒屋にいるところを想像してみるとよくわかる。ただの酔っ払った親父のザレゴトだ。「来るんなら来てみろ北朝鮮! 一発ノドンを落としてみろってんだ!」パフーッ。

 私はマンガ家だから人の顔を見る。いい顔かイケてない顔かくらいの区別はつく。だから世の人々の美的センスを疑う。石原さんの顔、みんな何か錯覚して「イイ男」だと勘違いしてませんか。兄弟だというだけで裕次郎さんとは全く違いますよ。私はあの「笑顔」がイヤだ。エバって自信ありげにふるまっていながら実は小心な、ひきつり気味の卑しい笑顔。絵に描くとわかりやすいんだけど、「ネズミ男」系。

 人気があって票が取れて、テレビに出れば視聴率が稼げて本にすれば部数が出る。だからだれも彼にストップがかけられない。オトガメなしだ。やりたい放題の言いたい放題。でも私は利害関係がないから彼に言える。言わなくてはいけない。気をつけて発言していただきたい。あなたほどの権力を持っていると、おそらく耳にすることのできない声がある。

 死にたいくらいの気もちでいる子どもに向かって、本気ならさっさとやればと言ってのけるその神経。ホントに死んでしまった子どもの親がもしそのことばを聞いていたら、どういう気もちになるのか、作家を自称するくせにそれくらいの想像力も持ちあわせていらっしゃらない。

 中国が嫌いなのか怖いのか、私の親族は半分華僑だ。おいしい中華を用意してご招待するから、一度遊びにいらしてほしい。そして私の母親の前でお好きな単語を連発していただきたい。「支那!」「三国人!」と、エバッた口調で。

 飲み屋でヌかしているか障子を前に小説を書いていればよかったのだ。知事の器ではない。




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