5月は新型インフルエンザに関する見出しがしばしば1面で躍った。弱毒性だが社会に与えた影響は大きかった。特に感染者を出した高校に「抗議」の電話やメールが相次ぎ、差別や偏見と受け取られる言動もあった。
本紙は22日の東京朝刊で、感染した女子高生の母親が「ネットの中傷で娘が自殺するかもしれない」と感染の疑いの段階では公表しないよう川崎市に要請していたことを紹介、感染者を差別するネットの陰湿さを書いた。
これに対し、元外務省医務官の精神科医が「医学的には弱毒性だが、心理的には強毒性だ。未知のものへの不安から自分を守ろうとすると、いじめや排除が起きやすくなる」「いじめを恐れて受診しない人が増えれば、毒性が強まった時に大変なことになる」と訴えた。
今回の新型インフルエンザ問題の本質に迫る指摘だ。「こんな記事は西部紙面でも積極的に使ってほしい」と紙面審は注文した。
23日の本紙朝刊オピニオンの欄で専門編集委員が「新型インフルエンザ騒ぎ」の見出しで「社会の過剰反応に対するメディアの責任は大きい」と書き込んだ。紙面審は、結果的に危機感をあおった報道や感染者バッシングのような日本社会の問題を検証し、再流行に備えることを確認した。
23日朝刊1面のトップは「税収下振れ2兆円超」の見出し。08年度の国の一般会計税収が、昨年12月の補正予算時点で見積もった46兆4290億円から2兆円以上「下振れ」することが分かったとの記事だ。「『下振れ』との経済用語は一般の読者には分かりにくい」と紙面審は提起した。
出稿元は東京。西部本社経済部は「数値や指標が想定より下がるという意味。単純に『下がる』『下回る』でもいい」と説明した。経済記事が読者に難しい印象を与えないよう、今後はできるだけ分かりやすい表現に言い換えることにした。
28日朝刊で「沖縄の県立高校長が押印を間違い、合格点の生徒が不合格」の記事を社会面トップに置いたことを紙面審は評価した。高校受験の合否を巡るミスは今春、全国的に起きた。「受験生の人生を狂わせたミスで、背景をしっかり探ってほしい」との注文も出た。【紙面審査会幹事 松田幸三】(最終版を基に執筆、次回は18日)
毎日新聞 2009年6月4日 西部朝刊