米国のブッシュ大統領が第二次大戦後の日本やベトナム戦争を引き合いに出して、自身のイラク政策を「絶賛」した演説をめぐって、その「奇妙」とも言うべき「歴史観」に米メディアでは批判の声が上がっている。日本では大きな批判にまで発展してはいないが、評論家やブロガーからは、「これを聞いて何で日本人はもっと怒らないのか」「日本をバカにしてるのか」といった批判の声が少なからず上がっている。
「日本の国教である『神道』があまりに狂信的」
「敵は自由を嫌い、アメリカや西欧諸国が自分たちをさげすんでいることに怒りを抱き、大虐殺を産み出した自殺的な攻撃を繰り広げました。どこかで聞いた話のようですが、私が述べる敵とは、アルカイダではなく、9.11テロでもなく、オサマ・ビンラディンでもなく、パールハーバー(真珠湾)を攻撃した1940年代の大日本帝国の軍隊のことです」
ブッシュ大統領は2007年8月22日、米カンザスシティーで行った演説で、自身が繰り広げてきたイラク政策を正当化するために、戦前の日本を引き合いに出した。「アルカイダ」や「9.11テロ」を引き合いに出して、日本の戦前について語るのも日本人には抵抗があると思えるが、さらにブッシュ氏は、
「民主主義は日本では決して機能せず、日本人もそう思っているといわれてきたし、実際に多くの日本人も同じことを信じていました。民主主義は機能しないと」「日本の国教である『神道』があまりに狂信的で、天皇に根ざしていることから、民主主義は日本では成功し得ないという批判もあった」
とまで述べ、「自由を嫌い」「民主主義が機能しないとされてきた」日本が、女性の防衛大臣を誕生させるほど民主的な国家になったという民主化の「成功体験」を語った。さらに話は、朝鮮戦争やベトナム戦争にまで及び、「アジアでの勝利」は「テロとの戦い」にも「応用」され、「敵」であるアルカイダやイラクの過激主義者を打ち負かす、イラク政策の「サクセスストーリー」を描いて見せた。
ブッシュ氏が語った「奇妙な歴史観」に基づくイラク政策賛美の演説については、海外メディアも批判を展開した。07年8月24日のインディペンデントは、「ジョージ・ブッシュはベトナムついて正しかったのか?」と題し、「日本やドイツは等質的な国家で復活するのにそれほど時間はかからなかったが、イラクは混合的」で対比できるものではない、などと報じたほか、ブッシュ大統領の歴史観について疑問を呈す報道が相次いだ。
「クリントンと並ぶ歴史的お笑い演説」
一方、日本では2007年8月25日付けの朝日新聞社説が、「戦後の日本の民主化が成功したからといって、イラクもというのは乱暴すぎます。日本には、明治の自由民権運動や大正デモクラシーの歴史がありました(中略)イラクのように占領後も反米闘争が続いている状況とは違います」と述べ、ベトナム戦争の介入やカンボジアの爆撃によって米国がもたらした惨禍を指摘。2007年8月26日のTBS系番組「サンデーモーニング」でも、この演説が取り上げられ、コメンテーターからは
「これを聞いて日本人はもっと怒らなくていいんですかね」「長崎・広島に原爆を落としたのもこういう発想があるから、ということになってしまう」(作家・幸田真音氏)
「アメリカに味方するかしないかが民主化の基準になってきた」(金子勝・慶大教授)
「(ブッシュ氏は)何とかイラク戦争を正当化したい、その理屈がおかしくなっちゃってる」(岸井成格・毎日新聞編集委員)
といった批判が相次いでいる。
NHKディレクター出身で現在、上武大学大学院教授を務める池田信夫氏は2007年8月26日に自身のブログで、米国のブログで「クリントンの『不適切な関係』についての演説と並ぶ歴史的お笑い演説」との評価が定着したことを指摘した上で、
「ブッシュ演説で笑えるのは、冒頭から真珠湾を持ち出して、日本軍とアルカイダを同一視し、日本には"shinto"というイスラム教なみの狂信的な国家宗教があり、占領後の抵抗は容易ではないと思われたが、実際には日本人はマッカーサーを熱狂的に歓迎した、とのべている部分だ。これはイラク開戦前に彼が『フセイン政権が崩壊したら、イラク国民はわれわれを歓迎するだろう』と言っていたのと同じだが、その予測が完全に外れたあと同じことをいっているのは、どういう神経なのか。日本人をバカにしているのか」
と綴っている。