栃木県足利市で90年、4歳女児が殺害された「足利事件」で無期懲役が確定し服役中の菅家利和受刑者(62)について、東京高検は4日、再審開始決定を待たず釈放すると発表した。現場に遺留された女児の着衣の体液と菅家元被告のDNA型が一致しないとする再鑑定結果を覆す証拠はないと判断した。併せて再審開始に反対しないとする意見書を東京高裁に提出したことも明らかにし、00年の刑確定以来、9年ぶりの再審開始が確実になり、無罪が言い渡される公算が大きくなった。
東京高検は同日、再鑑定結果について「無罪を言い渡すべき証拠に該当する可能性が高いと判断した」としたうえで「本日刑の執行を停止することにした」と発表した。法務省によると、仮釈放や病気以外の理由で受刑者を釈放するのは極めて異例。同日中に千葉刑務所から釈放されるとみられる。
再鑑定結果は先月8日、明らかになった。弁護側、検察側双方が推薦するそれぞれの鑑定医がいずれも「DNA型は一致せず当時の鑑定は誤りだった」とする結果を提出したことから、高裁は今月12日を期限に検察側、弁護側双方に鑑定に対する意見書の提出を求めていた。
足利事件を巡っては、捜査段階からDNA型が一致するとの当時の鑑定と菅家元被告の自白が有力な証拠として、1、2審が無期懲役を言い渡した。最高裁も00年、DNA鑑定の証拠能力を初めて認めて、有罪を支持する決定を出していた。
ところが、再鑑定で正反対の結果が出そろったため、検察側は、当時事件にかかわった栃木県警の捜査員らのDNA型を調べ、遺留物の着衣に関係者の汗などが混入した可能性について検証を進めた。その結果、遺留物の体液とDNA型が一致した人物はおらず、鑑定結果を受け入れる方針を決めた。さらに「証拠が崩れた以上、刑の執行を継続すべきではない」(検察首脳)として、異例の釈放に踏み切る方針を決めた。
弁護側は先月19日、菅家元被告の刑の執行を停止し釈放するよう東京高検に申し入れていた。【安高晋】
毎日新聞 2009年6月4日 11時19分(最終更新 6月4日 11時26分)