ここから本文エリア きょういく@東京
「教育改革の影」に一石2009年06月03日
◆塾運営、元小学校教員が出版 品川区戸越5丁目で、勉強が苦手な子どものための塾を運営する湯本雅典さん(54)は3年前まで26年間、小学校の教員をしていた。「もっと子どもと向き合うゆとりがほしい」。学校現場の中と外を経験して感じたことを「学校を辞めます 51歳・ある教員の選択」(合同出版)につづった。 湯本さんは06年3月、公立小学校教員をやめた。99年ごろから、過労と精神的なストレスで不整脈を患ってはいたが、退職を決意するまで体調が悪化したのは04年に起きた出来事がきっかけだった。 赴任先の荒川区が全校で導入した小学校英語についての投書が新聞に掲載された。翌日に校長に呼び出され、「投書で多くの人が迷惑している」と言われた。5日後には異動させる予定だと言い渡された。職場の仲間や保護者の支援もあり、2カ月後に撤回されて1年間は勤めたが、心身ともに限界だった。 学校をやめ、母親が経営していた賃貸マンションを引き継いだが、子どもたちと離れるのはいやだった。退職金をつぎ込んで経営するマンション地下室を改装。「べんきょうがきらいな子、あつまれ! たのしくゆっくりまなべる学習塾」と銘打ち、「じゃがいもじゅく」を始めた。 原則として1対1の個別指導。1回1千円の授業料は光熱費や教材代に消える。現在、小1から高1まで、地元の品川区のほか大田区、荒川区などから計16人が通う。半数はダウン症や自閉症といった障害があり、放課後を過ごす場所がない。 漢字や九九。分度器やコンパスの使い方……。じゅくの子どもたちが「教えてほしい」と言うのはほとんど基礎的な事柄だ。「学校で漢字を習う時間がない」と話す小学生や、本来、中1で習う「正負の数」を6年生に前倒しするなど独自のカリキュラムにつまずき、自信をなくした中学生もいる。 ゆっくり学ぶじゅくで、ゆっくり確実に力をつけた子どもたちは、小学校を卒業してからも通ってくる。湯本さんは「地道な基礎練習や反復学習に割く時間の余裕が、学校からなくなっているのではないか」と心配する。 学校選択制や小学校英語など新しい方針が打ち出されるたびに外部向けの会議や資料づくりに追われ、子どもを指導する時間が減るジレンマ。著書では、湯本さんの経験と、じゅくの子どもたちや保護者を通して感じた「教育改革の影」を指摘する。 湯本さんは「言いたいことも言えずにいる現場の先生、改革の流れについていけない子どもたちや保護者の声を発信したい」と話している。 「学校を辞めます」は税込み1260円。湯本さん制作の同名の映像ドキュメンタリー作品(16分)は、07年の東京ビデオフェスティバルで優秀作品賞を受賞した。本の問い合わせは合同出版(03・3294・3506)か、湯本さんへメール(yumo@estate.ocn.ne.jp)で。
マイタウン東京
|