AMDは6月2日、Socket AM3対応CPU 4モデルを一挙に発表した。低消費電力版のマルチコアCPUのほか、Phenom IIをベースとしたデュアルコアCPU、L3キャッシュレスのデュアルコアCPUと、個性的なモデルを投入された。これらのパフォーマンスを見ていきたい。
●Denebコア製品のほか新設計のデュアルコアも
今回、リテール販売することが発表された製品は以下の4製品である。
Phenom II X4 905e:約21,000円
Phenom II X3 705e:約13,000円
Phenom II X2 550 Black Edition:約11,000円
Athlon II X2 250:約9,500円
クアッドコアからデュアルコア製品まで揃っているが、いずれもSocket AM3に対応する製品となる。まずは、これら新製品の特徴からまとめていきたい。
Phenom II X4 905e(写真1/画面1)とPhenom II X3 705e(写真2/画面2)は、それぞれクアッドコアとトリプルコアの新製品となる。仕様は表1、2にまとめたとおりだ。末尾の「e」は両製品が低消費電力版であることを示す。TDPは65W。
【表1】Phenom II X4 905eの仕様
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Phenom II X4 905e | Phenom II X4 810 | Phenom II X4 945 |
OPN | HD905EOCK4DGI | HDX810WFK4FGI | HDX945WFK4DGI |
リビジョン | Rev.C2 | ||
プロセスルール | 45nm SOI | ||
ソケット種別 | Socket AM3 | ||
動作クロック | 2.5GHz | 2.6GHz | 3.0GHz |
L1データキャッシュ | 64KB×4 | 64KB×4 | 64KB×4 |
L2キャッシュ | 512KB×4 | 512KB×4 | 512KB×4 |
L3キャッシュ | 6MB | 4MB | 6MB |
HT Linkクロック | 2.0GHz | ||
対応メモリ | DDR3-1333/DDR2-1066 | ||
動作電圧 | 0.825〜1.25V | 0.875〜1.425V | 0.875〜1.5V |
周辺温度(最大) | 70℃ | 71℃ | 71℃ |
TDP(最大) | 65W | 95W | 95W |
【表2】Phenom II X3 705eの仕様
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Phenom II X3 705e | Phenom II X3 720 Black Edition |
OPN | HD705EOCK3DGI | HDZ720WFK3DGI |
リビジョン | Rev.C2 | |
プロセスルール | 45nm SOI | |
ソケット種別 | Socket AM3 | |
動作クロック | 2.5GHz | 2.8GHz |
L1データキャッシュ | 64KB×3 | 64KB×3 |
L2キャッシュ | 512KB×3 | 512KB×3 |
L3キャッシュ | 6MB | 6MB |
HT Linkクロック | 2.0GHz | |
対応メモリ | DDR3-1333/DDR2-1066 | |
動作電圧 | 0.825〜1.25V | 0.850〜1.425V |
周辺温度(最大) | 72℃ | 73℃ |
TDP(最大) | 65W | 95W |
コアのリビジョンはこれまでのDenebコア製品と同様に“C2”が利用されている。Phenom II X4 945の95W TDP版が登場するなど、歩留まりが良くなっている印象は受けるが、基本的にはクロックや動作電圧を抑えることで実現された低消費電力版という解釈でいいだろう。それでもL3キャッシュは6MBが搭載されており、この点は魅力となる。
デュアルコアCPUは2製品が登場。仕様は表3にまとめたとおり。なお、各製品の情報はAMDのWebサイトまたは、AMDから提供された資料に基づいて作成しているが、動作電圧の欄に補足がある。Athlon X2 7850 BEの動作電圧が1.20〜1.25Vと非常に狭い範囲での変化になっているが、これはSingle-Plane時の動作電圧と見られる。今回発表される製品の動作電圧はDual-Plane時の動作電圧と見られる値が提供されている。Athlon X2 7850 BEも、CPU-Zの表示ではアイドル時に1.05Vまで下がることを確認しており、Dual-Planeでは、もう少し広い範囲で動作電圧が変化するはずだ。
【表3】Phenom II X2/Athlon II X2の仕様
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Phenom II X2 550 Black Edition | Athlon II X2 250 | Athlon X2 7850 Black Edtion |
OPN | HDZ550WFK2DGI | ADX250OCK23GQ | AD785ZWCJ2BGH |
リビジョン | Rev.C2 | 不明 | Rev.B3 |
プロセスルール | 45nm SOI | 65nm SOI | |
ソケット種別 | Socket AM3 | Socket AM2+ | |
動作クロック | 3.1GHz | 3.0GHz | 2.8GHz |
L1データキャッシュ | 64KB×2 | 64KB×2 | 64KB×2 |
L2キャッシュ | 512KB×2 | 1MB×2 | 512KB×2 |
L3キャッシュ | 6MB | なし | 2MB |
HT Linkクロック | 2.0GHz | 1.8GHz | |
対応メモリ | DDR3-1333/DDR2-1066 | DDR2-1066 | |
動作電圧 | 0.850〜1.425V | 0.850〜1.425V | 1.20〜1.25V(※) |
周辺温度(最大) | 70℃ | 74℃ | 73℃ |
TDP(最大) | 80W | 65W | 95W |
さて、このデュアルコア2製品は特徴が大きく異なる。Phenom II X2 550 Black Edition(以下、Black EditionはBEと表記)は、同社のデュアルコアCPUとして最上位のモデルとなる(写真3/画面3)。
その最大のポイントとなるのは、Phenom IIのアーキテクチャをベースとしたこと。コアはデュアル/トリプルコアと同じDenebのC2リビジョンを用いており、2個のコアを制限して利用する格好となる。
そして、動作クロックは3.1GHzとかなり高い。先に販売が開始されたPhenom II X4 945をも上回るクロックである。また、Black Editionの名称が示すとおり倍率ロックフリーとなっているあたりは重視すべきだろう。
また、Phenom II X2 550 BEはデュアルコア製品としては初めてPhenomブランドを冠したモデルとなる点も特徴といえる。同社はこれまで、Phenomベースのコアへ移行した以後も、デュアルコア製品はAthlonブランドを引き続き用いてきたが、Phenom IIアーキテクチャのデュアルコア適用を機に、デュアルコアの上位ブランドとしてPhenom II X2という名称を用いてきた格好になる。
一方のAthlon II X2 250は、デュアルコア製品のバリューブランドということになる。こちらは、Regorの開発コード名で示されてきた新設計のコアを用いており、Phenom II X2とは性格の異なる製品となる。基本的なマイクロアーキテクチャはPhenom IIに準じるが、L3キャッシュを搭載せず、L2キャッシュをコア当たり1MBに増量した点に特徴がある。
さらに、Phenom II X4/X3/X2は、いずれも7億5800万個のトランジスタを使った258平方mmのダイが用いられるのに対し、Athlon II X2は2億3400万個のトランジスタを用いた117.5平方mmのダイとなる(写真5)。ダイサイズの縮小により歩留まりを向上させた、低価格製品向けのダイというわけだ。
確かにL3キャッシュがないのは気になるところが、ファースト製品でありながら3GHz動作という高いクロックを実現している点は大きな魅力となるだろう。
また、AMDの資料でAthlon II X2 250が仮想化技術のAMD-Vをサポートしている点もアピールされているのが興味深い。これはWindows 7でサポートされるWindows XPモードを見据えたものだろう。対するIntelのPentium Dual-CoreのE5000番台はIntel VTをサポートしておらず(E6000番台はサポートされている)、この点で優位性があるというわけだ。
【写真1】低消費電力版クアッドコアCPU「Phenom II X4 905e」 | 【画面1】Phenom II X4 905eにおけるCPU-Zの結果 | 【写真2】低消費電力版トリプルコアCPU「Phenom II X3 705e」 |
【画面2】Phenom II X3 705eにおけるCPU-Zの結果 | 【写真3】Phenom IIコアを使ったデュアルCPU「Phenom II X2 550 Black Edition」 | 【画面3】Phenom II X2 550 BEにおけるCPU-Zの結果 |
【写真4】新設計ダイを用いたデュアルコアCPU「Athlon II X2 250」 | 【画面4】Athlon II X2 250におけるCPU-Zの結果。CPU-Z 1.51には情報が登録されていない | 【写真5】Athlon II X2 250のダイ写真 |
●各製品のパフォーマンスをチェック
それではベンチマーク結果を紹介していきたい。テスト環境は表4に示したとおり。ここでは、AMDの従来製品から3製品、インテルの競合製品から2製品を比較対象として、今回発表された製品の性能を見ていく。テストに用いたパーツは写真5〜8のとおりである。
【表4】テスト環境
CPU | Phenom II X4 905e
Phenom II X4 810 Phenom II X3 720 BE Phenom II X3 705e Phenom II X2 550 BE Athlon II X2 250 Athlon X2 7850 BE |
Core 2 Quad Q8200s
Core 2 Duo E7500 |
チップセット | AMD 790FX+SB750 | Intel P45+ICH10R |
マザーボード | ASUSTeK M4A79 Deluxe | ASUSTeK P5Q PRO |
メモリ | DDR2-800(1GB×2,5-5-5-18) | |
ビデオカード | NVIDIA GeForce GTX 280(GeForce Release 185.65) | |
HDD | Seagete Barracuda 7200.11(ST3500320AS) | |
OS | Windows Vista Ultimate Service Pack 2 |
【写真6】AMD 790FX+SB750を搭載する、ASUSTeKの「M4A79 Deluxe」 | 【写真7】Intel P45+ICH10Rを搭載する、ASUSTeKの「P5Q PRO」 | 【写真8】GeForce GTX 280を搭載する、ASUSTeKの「ENGTX280/HTDP/1G」 |
まずはCPU性能をチェックする。テストはSandra 2009 SP3aのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2〜3)だ。
【グラフ1】Sandra 2009 SP3a Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmar |
【グラフ2】GPCMark05 CPU Test(シングルタスク) |
【グラフ3】GPCMark05 CPU Test(マルチタスク) |
ALUをテストするSandraのDrystoneにおいて、Phenom II X4 810のスコアが伸び悩むという不思議な結果が出たものの、おおむねコア数や、動作クロックに沿った結果になっている。AMD勢で唯一の初代PhenomベースとなるAthlon X2 7850 BEだが、Phenom IIで改良された整数演算で不利が大きい印象は受けるものの、ここではアーキテクチャよりもクロック差が響いた格好となる。
クロック差といえば、1タスク、2タスク、4タスクのテストが行われるPCMark05の結果は面白い。今回登場した製品は、クアッド/トリプルコアはクロックが遅い低消費電力版であるのに対し、デュアルコア製品は3GHz以上という高クロックで動いている。よって、シングルタスクや2タスク同時実行のテストなどは、当然クロックの低いクアッドコア製品を上回る結果を見せており、実際のアプリケーションでも威力を発揮するシーンがあるだろう。
Core 2製品との比較では、Phenom II X4 905eがCore 2 Quad Q8200sと同等かやや劣り、Phenom II X2 550 BEがCore 2 Duo E7500と同等程度の結果になっている。演算性能という点では、このあたりの位置付けになるようだ。
次はメモリテストの結果である。テストはSandra 2009 SP3aのCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Test(グラフ5)だ。
【グラフ4】Sandra 2009 SP3a Cache & Memory BenchmarkBenchmark |
【グラフ5】PCMark05 Memory Test(シングルタスク) |
キャッシュ速度については、コア数、クロックに準ずる結果となった。ただし、Athlon II X 250については、L2キャッシュが合計1MBとPhenomベースの製品としては容量が大きいので、ほかのAthlon製品に比べて1MBブロックの転送で速度の落ち込みは小さい。ただし、それ以上の容量ではL3キャッシュが省かれたことが響いて一気に速度が落ち込む格好だ。
メインメモリへのアクセスはSandraの結果でおよそ6.3MB/sec前後といったところ。Phenom II X2 550 BEがやや遅いのは気になるところではあるが、理屈でいえばほかのPhenom IIベース製品と同等程度の速度が出てもおかしくはない。テスト時点では発表前の新製品ということもあり、正式版のBIOSでももう少しチューニングが進む可能性は十分にある。
次に一般アプリケーションを用いたベンチマーク結果である。テストは、SYSmark 2007 Preview(グラフ6)、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)だ。AMD製CPUのテストで、PCMark VantageのGamingテストにエラーが発生したため、テストを省略している。
【グラフ6】SYSmark 2007 Preview |
【グラフ7】PCMark Vantage |
【グラフ8】CineBench R10 |
【グラフ9】動画エンコードテスト |
ここも、おおむねコア数やクロックに準じた結果になっているものの、一部はキャッシュ周りの仕様差が影響したとみられる結果がある。例えばPCMark VantageのMemoriesテストは主に静止画処理のテストだが、Phenom II X4 905eとPhenom II X4 810の結果で、動作クロックが低い前者のほうがよい結果を出した。この両製品は前者のほうがキャッシュ容量が大きいことに起因すると見られる。静止画というデータサイズにマッチしたのだろう。
この、Phenom II X4 905eはCore 2 Quad Q8200sと比較して得手不得手が目立つが、総合的には同等程度と見なしていいだろう。Phenom II X2 550 BEはCore 2 Duo E7500に一歩届かない、という結果が多く見られ、立ち位置としてはCore 2 Duo E7500とCore 2 Duo E7400の間あたりに位置付けることができそうだ。Phenom II X2 550については、SYSmark2007のVideo Creationで大きくスコアを落とす結果も見て取れるが、この理由はいくら考えても浮かんでこない。先のメモリテストでスコアを落としたことが影響しているのかも知れない。
また、Athlon II X2 250は、スコアが伸び悩むテストが随所に見られる。特に目立つのは、Productivity系のテストとMPEG-2エンコードのテストだ。これらはCPUに対する要求もさることながら、メモリアクセスの性能も重要なテストなだけに、L3キャッシュを持たないことが響いたと見られる。それでも、多くのテストでは動作クロックの高さもあってAthlon X2 7850 X2を上回っており、バリューブランドの新製品としては興味深い製品になっている。
続いては3D関連のベンチマーク結果だ。テストは、3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、LOST PLANET COLONIES(グラフ13)である。Phenom II X3 705e環境で、3DMark06のSXGA条件がどうやっても完走しないという不思議なトラブルが出たため、結果を省略している。
【グラフ10】3DMark 06/Vantage CPU Test |
【グラフ11】3DMark Vantage Graphics Test |
【グラフ12】3DMark06 SM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test |
【グラフ13】LOST PLANET COLONIES |
ここではPhenom II X2 550 BEの健闘が目立つ。クロックが高いことで、グラフィック処理が中心のテストでは威力を発揮した格好だ。もちろん、マルチスレッドに対応したCPU処理中心のテストではスコアを下げる。ただ、Phenom II X3/X4の低消費電力版はクロックが低いこともあって、この3D関連のベンチマークではあまり光るところがない。ゲームユースに関しては、今回発表された製品群のなかではPhenom II X2 550 BEがもっともおもしろい製品といえる。
最後に消費電力の測定結果だ(グラフ14)。Core 2製品との比較ではやや分が悪い格好とはなっているが、低消費電力版のPhenom II X4 905e/X3 705eは、さすがに消費電力がよく抑えられている印象を受ける。
【グラフ14】消費電力 |
また、デュアルコア製品の消費電力も着目すべきだ。旧PhenomベースのAthlon X2 7850 BEに比べて消費電力を大きく抑えることができており、デュアルコア製品が45nm SOIのPhenom IIベースへ移行することに大きな意味を見いだせる。とくに、低消費電力版製品ではないが、これからのバリューセグメントを担うAthlon II X2 250の消費電力の低さは特筆できる。
●スケーラビリティが高まったSocket AM3製品群以上のとおり、本日発表されたAMDの新製品をテストしてきた。クアッドコア、トリプルコア製品に関しては、既存製品よりクロックが低い低消費電力版ということで、性能面で特筆すべきことはないが、消費電力は確実に抑制されている。
デュアルコア製品は、初めてのPhenom IIベースということに加え、既存のAthlon X2に比べて動作クロックが大幅に高まったことから、性能面での魅力も大きなものとなった。
そして、今回の発表によりSocket AM3製品はハイエンドからメインストリーム、そしてバリューセグメントまで一通りラインナップされたうえ、AMDの戦略上欠かせない低消費電力版CPUも用意された。
とくに、これまでバリューセグメントはSocket AM2+プラットフォームを選ぶしかなかった。今回のAthlon IIブランドの投入によりSocket AM3プラットフォームで全セグメントをカバーできるようになる。今回の製品発表は単なる新製品発表というだけでなく、Socket AM3プラットフォーム全体にとって大きな意味を持つものといえる。