(A)企業への就職状況
中学卒業後すぐ就職するか、または進学した後に就職するかは別にして、日本の企業への就職を希望する生徒が多くなってきています。数年前までの、男子は「土方」か「医者」、就職するなら「焼き肉屋、パチンコ屋、鉄くず回収業」といわれていた時代とは大きく状況が変化してきています。
規模 | 家族のみ | 1〜4人 | 5人〜29人 | 30〜49人 | 50〜99人 | 100〜299人 | 300人以上 | 公務員 |
人数 | 20 | 14 | 10 | 12 | 6 | 2 | 0 | 9 |
以前の厳しい就職差別状況(上の表参照)が今も続いていると考えている保護者も多数います。
しかし、「コリア就職情報」誌(P65参照)の1989年の調査によると日本の株式市場一部上場企業と外資系大企業3,194社中452社に、在日外国人の採用経験があります(法務省入管調査局では233社)。もちろん、これらの大企業の中には、中卒者は日本人を含めて採用していない企業も多く、また在日外国人の場合高卒者は採用しても大卒者は採用しない企業もありますが、数年前と比較すると驚くほど就職状況はよくなってきています。これは、10数年にわたる教員らが参加した進路保障の取り組みの成果だと考えられます。
将来、日本の企業に就職を希望する生徒に対しては、道は厳しいが可能性は大いにあること、就職差別から逃げていたのでは道は開けていかないことを理解させる必要があります。
(B)国籍条項(外国人不可の条項)
「大きくなったら何になりたい?」在日韓国・朝鮮人の子ども達にとって、こんな残酷な質問はありません。今も残っている国籍条項として、議員や大臣はもとより、国家公務員(郵便外務職だけは1985年から可)、都道府県や政令指定都市公務員(一般事務職、一般技術職はどこも否)、裁判官、検事、水先案内人、船員、警察官、消防士、公立学校教員(和歌山県は以前から国籍条項を教員採用に関してもうけられた形跡はありません。また、教員採用試験に在日韓国・朝鮮人の人々が受験しにくるのですが、残念なことにまだ合格者を出していません。)などがあります。しかし、「コリア就職情報」「外国人が公務員になってもいいじゃないかという本」(P65参照)などで調べると、国籍条項が撤廃された職種が多数存在することがわかります。
1989年、3人目の兵庫県職員として採用試験に合格した朴真一君は在日外国人の 公務員の先駆者として、後に続く後輩のため にもがんばり続けたい」と語っています。弁 護士、医師、一級建築士、税理士などの専門技術でがんばっている在日韓国・朝鮮人も市 内・県内に何人か生まれてきています。
和歌山県内でも若干名ながら、在日韓国・朝鮮人の若者が臨時的任用の講師という身分で教壇に立ったことがあります。はやく、臨時的任用でなく、正式に教諭としての立場で教壇に立って欲しいと思います。そのことがどれだけ多くの在日韓国・朝鮮人児童・生徒を勇気づけるかしれません。
自営業については、韓国・朝鮮人は、店や工場を借りたり、銀行から融資を受けることが難しく船舶や航空機の所有権、鉱業権、公証人資格が取れないために基幹産業から排除されてきました。しかし、困難な状況の中でも、実業家として成功した先輩も多数存在します。
現在、神戸市職員国籍条項違憲訴訟を始め、国籍条項をなくす運動が各地で繰り広げられています。将来を考えて絶望しそうな子どもに、「先生達も就職差別をなくすために戦うから、君も希望を持って努力を続けなさい」と助言できれば、すばらしいことだと思います。同時に、現在すでに国籍条項が撤廃されている職種に積極的にチャレンジし、戦いによって開かれた扉をくぐって入っていく子どもを育てていくことも重要な課題ではないでしょうか。
(C)本名就労のすすめ
公務員になったものや、大企業で働くことになったものが、通名で就職したのでは進路保障運動に関わった人の意志に反しています。進路保障が日本人との同化につながるようでは、運動への支援もなくなるでしょう。本名で就労する決意を持っている生徒を送り込み続けてきたからこそ、運動の成果も上がってきたのです。
大ホテルで本名の名札をつけて、フロントマンとしてがんばっている李(イ)君、市民病院の受付で本名で働く鄭(チョン)さん。本名就労したものは、皆本名ではたらことにより、同胞に信頼され、自分ものびのびできてよかったという体験を話してくれます。
「初対面の人に名刺を出すたびに、すごく疲れる。日本の名前ないんですかという人もいる。だけど、僕は在日三世で日本で生まれて育っても、それでも名刺の名前が本名です」と語っていた金(キム)君も、今では「ウソの名前で仕事をしていても、誰からも信用してもらえないし、自分に対しても自信を持てなくなってしまう」と考えるようになってきています。職場の中で自分を隠し、いつばれるかとびくびくするのは大変な苦労ですし、学校以上につき合う時間の長い職場の人間関係の中では、韓国・朝鮮人であることが、同僚に知られてしまっているのに、本人だけがそれを知らずに隠し続けているといった悲劇すら生じているのです。
通名就職を強要する企業があれば、就職内定の後からでも、本人の希望通り本名就労を保障させる話し合いをしていく教員や学校が増えていくことが望まれています。
(D) 進路保障、進路開拓
兵庫県の多くの学校で生徒の就職先を開拓していく手段として、次のような3種類のパターンによる努力が重ねられてきました。
|
生徒の進路を確実に保障し続けることによって、保護者や子どもとの信頼関係が生まれてくるという側面があります。しかし、進路保障と本名指導は、車の両輪であるといわれるように、生徒の民族的自覚を高める努力なしに進路を開拓しても、就職後の日本社会の差別と排外の壁の結果、転職や退職に追い込まれてしまうこともあります。そして、転職後の職場は、特別な資格を持っているもの以外は、より条件の悪い職場になることが多いのです。
(E)今後の在日定住外国人の公務員採用について
かつて大阪府が外国人採用に関して自治省に伺いをたてたことがありましたが、そのときの返答は「外国人の採用は不適格」というものでした。この理由としては、「当然の法理」すなわち「公の権力の行使と公の意思の形成に携わる者は日本国籍を有する」という見解があるからです。しかし、この見解も1995年に最高裁が出した判決で大きく変わろうとしています。この判決についての詳しいことはここでは省きますが、おおよそ「外国人に地方参政権を与える」というもので、明らかに地方選挙を通して外国人の公の意思の形成を認めたことになります。今まで「当然の法理」として自治省がいって来たことはだんだんと正当な理由とはなりえなくなってきています。
また、元来公務員の採用については、「内閣総理大臣と外務公務員」は日本国籍を有する者でなければなりませんが、そのほかの業種については、憲法はおろか国家公務員法・地方公務員法にもなにも明記されていません。それ故自治省は「当然の法理」として外国人の採用については「不可である」と指導(?)してきたのです。
逗子市では、富野元市長が定住外国人について「国籍条項」を削除した例がありますし、また、昨今1996年1月31日に高知県の橋本知事が定住外国人の県職員採用試験を認めることを英断しました。
現在、在日韓国・朝鮮人の公務員採用については厳しい壁がもうけられているのが現実ですが、この壁も以上のように少しずつ壊れようとしています。「地方自治の時代」が叫ばれている昨今、これも一つの流れとなっていくのではないかと考えられます。またこのことは、在日韓国・朝鮮人の子ども達にとって明るいニュースとなるはずです。
ただ残念なことに、本県は一部の現業職(看護婦など)をのぞいて採用がありませんし、採用についてのいち早い見直しが望まれています。また、教員採用については、前にも書きましたが、国籍条項はありませんし、現実に採用試験を受けるにあたって、県教委は受験を拒んだことはありません。また、和歌山市においては、技能現業職(電話交換手・保母・保健婦・用務員・警備員・看護婦など)は原則的に国籍条項がありませんが、一般行政職については、国籍条項がもうけられています。
このような状況の中で、私たちは自分達の教え子が教壇や各役所で立派に働く姿を早くみたいと切望しまし、早く国籍条項の見直しが行われなければなりません。そしてそのためにも、「在日外国人教育」の普及が私たち教職員に要求されています。