きょうの社説 2009年6月1日

◎全州市との交流 成熟した関係は地域から
 竹島の領有権をめぐる日韓両政府の対立で、昨年からぎくしゃくしている金沢市と韓国 の姉妹都市・全州市との関係が、今月予定される宋河珍・全州市長の金沢訪問で、ようやく修復へ動き出すことになった。

 日韓の自治体交流は、領土や歴史問題の政治対立が激化するたびに停滞するという不幸 な事態を繰り返しているが、たとえ政府同士が衝突しても、地域交流や民間の経済・文化交流は滞ることがないという関係になってこそ、成熟した日韓関係といえる。

 宋市長は、金沢市の姉妹都市公園に設けられた全州市コーナーの開園式に出席すること になっている。今回の来訪を、時々の政治・外交問題に左右されることのない安定した自治体交流の新たな一歩としたい。

 昨年、日本の新学習指導要領解説書に、竹島を日本の領土として教えることが初めて記 述された。日本としては当然のことながら、これに韓国側が激しく反発し、全国の自治体などが主催する100件以上の日韓交流イベントが中止ないし延期された。ほとんどは韓国側からの申し入れによるもので、全州市に徽軫(ことじ)灯籠の複製を贈呈する金沢市の計画が今もストップしたままなのは残念である。

 それでも、関係者の熱意で途切れなかった交流事業も少なくない。金沢市早朝ソフトボ ール連盟と「石川少年の翼」それぞれの韓国訪問や、能美市根上中の姉妹校である韓国・培材中の生徒たちの来訪が実現するなど、日韓関係が冷えこむ中にあって、石川と韓国の地域交流は比較的活発に続けられた。これまでの地道な交流で培われた信頼感や、地域レベルの交流は政治・外交問題と切り離して継続するべきという双方の冷静な判断の表れといえよう。

 領土問題の解決は現実には至難であり、それを超えた成熟した日韓関係構築の大きな鍵 は、日常の地域交流の深まりにあるといってよい。朝鮮通信使が行き交った時代に説かれた「誠信の交わり」という外交の要諦を、いま地域でいかに実践するかである。そのモデルと言われるような取り組みを金沢市や県に望みたい。

◎サブカルチャー拠点 産業戦略と人材育成を
 今年度の補正予算に百億円を超える事業費が計上された「国立メディア芸術総合センタ ー」は、「アニメの殿堂」などと言われ、野党などから無駄遣いの象徴として批判を浴びている。国際的に評価の高い日本のアニメーションや漫画、ゲームソフトなど、いわゆるサブカルチャーの拠点をつくる計画であるが、より重要なことは、メディア芸術を一大産業として発展させる戦略と人材の育成である。

 アニメやゲームに映画などを加えた日本のコンテンツ産業の市場規模は2006年度で 約14兆円に上り、約60兆円の米国に次ぐ大きさである。しかし、そのうち海外市場での売上高は米国の18%に対して、日本は3%に満たない。

 日本のアニメなどは近年、クールジャパン(かっこいい日本)と称され、国際的に高い 評価と人気を得ている。映画「おくりびと」と短編アニメ「つみきのいえ」が今年の米アカデミー賞の外国映画賞などを受賞したことは、日本のコンテンツ産業が文化外交の武器となり、輸出産業としても大きな可能性を持っていることをあらためて示すものであるが、海外展開の実態は、評価の高さに比べて寂しい限りである。

 例えば、韓国映画の輸出額がこの10年間で約20倍に伸びていることなどを考えると 、日本のコンテンツ産業は、国内市場の豊かさに甘えて海外戦略が不十分だったと言わざるを得ない。コンテンツビジネスは多様化、グローバル化が一段と進んでおり、日本も戦略的な取り組みが必要である。

 また、アニメ産業などでは人材確保の難しさが指摘されている。公正取引委員会の調査 では、低い制作費で仕事を引き受けざるを得ない下請けの実態が報告されており、若いスタッフの収入の少なさが人材難の背景にあるようだ。コンテンツ産業の基盤の強化も政府は考えなければなるまい。

 アニメや漫画は軽んじられがちだが、日本のソフトパワーのひとつであり、成長産業に なり得る。そうした視点でとらえれば、サブカルチャー拠点を無駄なハコモノという批判は的外れである。