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【国際】

復興の裏で 四川大地震1年<上> 校舎倒壊 抗議の父母に弾圧

2009年5月14日 朝刊

12日、都江堰市の新建小学校と聚源中学校の共同墓地で、墓参りする女性と女の子=共同

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 三月の全国人民代表大会(中国の国会に相当)を前に、一枚の施工図が、ある代表に送られてきた。四川大地震で倒壊した四川省北川県の中学校校舎の鉄筋の数を記した手抜き工事の証拠だった。

 送ったのは、倒壊で子供を亡くした父母。当局は素早かった。「施工図を公開すると、国家機密漏えい罪で処罰する」と警告。父母はその後、施工図を話題にしなくなった。

 政府は「校舎の倒壊は地震が原因だ」と言い続ける。当局の規制で、校舎の手抜き工事の問題は、中国で報道されなくなった。

 都江堰市の新建小学校で長男を亡くした男性(40)は「誰の責任かを知りたいだけ」と言う。父母の思いは同じだ。男女二人が三月、同市政府にあらためて抗議に出向くと、いきなり逮捕された。一年間の自宅謹慎処分。「もう身動き取れない。希望はないよ」と男性は肩を落とした。

 こう話し、男性は「絶対に名前を公表しないでくれ」と繰り返した。公安当局ににらまれると、仕事に響く。抗議の先頭に立ってきた別の男性(40)に、都江堰市内から電話をかけると、「公安当局に呼び出された」と姿を現さなかった。

 「携帯電話は公安に盗聴されている」と言う。四月の清明節(墓参りの日)に、一人が携帯メールで追悼式を呼び掛けると、即座に警官に拘束された。

 当局は、父母が集まり大きな勢力になることを警戒する。地震一年の十二日は、リーダー格の父母が警官によって、市外に“旅行”に連れ出され、墓参りがかなわなかった。

 父母らに絶望感が漂う中、国家権力に挑む人がいる。北京五輪スタジアム「鳥の巣」の共同設計者、北京市在住の艾(がい)未未さん(51)は被災地を回り、死亡した児童・生徒の名簿をつくってきた。

 「文化大革命(一九六六−七六年)も死者の名前や数が判然としない。市民に情報が公開されないから、腐敗がなくならない」と言う。仲間約二十人が拘束されるといった妨害を乗り越え、名簿は五千人を超えた。

 「数字の明示は難しい」と拒否してきた四川省政府は七日、「死者・行方不明者は五千三百三十五人」と公表した。小さいながらも風穴が開いた。

 「名簿は生命の尊重を意味する。情報公開で政府の姿勢は変わる」と信じ、艾さんは活動を続ける。(都江堰で、小坂井文彦、北京で、朝田憲祐)

   ◇  ◇

 中国政府は一年間で復興計画の85%を終えたと宣言した。だが、被災者の厳しい暮らしは続いている。四川大地震から一年、復興の裏側を探った。

 

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