2009年5月30日1時39分
車を持っていることを理由に生活保護を停止されたのは不当だとして、北九州市門司区の夫婦が市に処分の取り消しを求めた訴訟で、市の処分を違法と認定して取り消した29日の福岡地裁判決は、市の対応を「夫婦が直ちに困窮状態に陥ることが容易に予想されるのに、実情を十分考慮せずに処分した」と批判した。
訴えていたのは、峰川義勝さん(68)と難病で重度の障害がある妻久子さん(77)。
判決は、車いすの久子さんが約15キロ離れた病院に週1回通院するのに、夫婦の自宅周辺は坂道が多く、最寄りのバス停までは約400メートルあったとして、車以外では極めて困難だったと指摘。厚生労働省は市の処分当時、公共交通機関の利用が著しく困難な地域に住む障害者の通院利用などに限って車の所有を許していたが、判決は「原告は実質的に保有の要件を満たしている」と結論付けた。
判決後に会見した峰川さんは「車は生きていくための『命綱』。もし車が使えなければ家から一歩も出られなかった。市にはもっと聞く耳を持ってほしかった」。市は04年8月に生活保護を停止し、翌年4月には夫婦の健康状態の悪化などを理由に保護を再開。この間は食事の回数を減らして過ごしたといい、「戦時中のようだった」と久子さんは振り返った。
弁護団はその後、市役所を訪ねて「裁判所の批判を受け入れて謝罪するとともに、これ以上の苦しみから解放するよう強く求める」と控訴しないよう申し入れた。同市の守口昌彦保護課長は「判決文をよく読んで、関係機関とも協議の上、対応を検討していきたい」とのコメントを出した。
元ケースワーカーの吉永純・花園大教授(公的扶助論)は「北九州市の生活保護行政を明確に違法と判断したことで、判決は行政にしっかりとした対応を迫った」と評価。「雇用不安から若い生活保護受給者も増えており、自立には車が不可欠だ。『現状の運用でもまだ不十分だ』と一歩踏み込んだ判決が出なかったという点では少々、残念」と話した。