子供に国内移植を 渡米後死亡…男児の両親訴え
そうちゃんはなぜ、海を渡らなければならなかったのか…。昨年12月、心臓移植の直前にわずか1歳で一人息子の中沢聡太郎ちゃんを亡くした両親は、今もこの問いを繰り返している。国内での小児移植を制限してきた臓器移植法の改正審議が、今国会で進んでいる。現行法は15歳未満の脳死臓器提供を認めていないため、幼い体に合う臓器はみつからず、莫大(ばくだい)な費用がかかる海外での移植を選んだ子供は施行からの12年で100人を超えた。このうち渡航準備中や渡航先で死亡した子供は30人以上に上っている。(滝口亜希)
「一般的に余命はあと半年です」
聡太郎ちゃんの父、啓一郎さん(37)と母、奈美枝さん(34)は昨年8月、医師にこう告げられた。聡太郎ちゃんは同6月に高熱を出し横浜市内の病院に緊急入院した。原因不明の拡張型心筋症と診断された。残された道は海外での移植手術。費用は約1億6600万円と途方もない額だった。
看護師だった奈美枝さんは休職し、会社員の啓一郎さんは仕事の合間をぬって街頭に立ち、募金を集めた。友人の助けもあり、2カ月後には受け入れ先の病院に支払う保証金にあたる約1億円が集まった。募金の目標額には足りなかったが、この間にも聡太郎ちゃんの体力は目に見えて衰えていった。「最後のチャンスだ」。夫妻は渡航を決意し、同12月5日、聡太郎ちゃんは海を渡った。
≪ねだった抱っこ≫
米ロマリンダ大病院に入院直後の9日には、移植待機リストの最高上位に登録された。だが、聡太郎ちゃんはこの日の夜、苦しそうなうなり声をあげるようになる。尿が出ず、おなかはパンパンに張っていた。それでも啓一郎さんが心配してのぞき込むと、弱々しく笑いながら右手を伸ばし、抱っこをねだった。
翌朝、夫妻が病室へ行くと、ぐったりと横たわったまま動かない聡太郎ちゃんの姿があった。心臓マッサージなどが施されたが、医師は啓一郎さんの肩をたたき「もう帰ってこないと思います」と告げた。眠るような顔で横たわる聡太郎ちゃんの傍らで、夫妻は半日泣き続けた。手もほおも柔らかかったが、体には死斑が浮き上がっていた。「どんな形でも生きてほしい」と望んだ聡太郎ちゃんの角膜提供も病気の影響でかなわなかった。
≪小さな段ボール≫
遺体は病院近くの斎場に運ばれたが、棺が炎に包まれると係員から「骨は日本へ郵送します。お帰りください」と事務的に伝えられた。現地では遺骨を拾う習慣がないためだ。「せめて骨だけでも持ち帰らせて」と食い下がり、近くのファストフード店で1時間半近く時間をつぶして斎場に戻ると、小さな白い段ボール箱を渡された。中には遺骨と遺灰の入ったポリ袋が詰め込まれていた。
渡航前、海外移植への迷いはなかった。「そうちゃんの運命は変えられないかもしれないけど、だから頑張りたい」。そう話していた奈美枝さんだが、あまりに味気ない最期の姿を思いだすと、決断が正しかったのか分からなくなる。
「私は外国でみとるということがどういうことか分かっていなかった。どうせ死ぬなら、せめて日本でみとってあげたかった」
今、夫妻は各地の講演会で聡太郎ちゃんの短い人生を語り、こう訴える。臓器移植法の改正審議の行方を見守りながら。「子供にも平等に機会を与えてほしい。こんな思いをする人が出ないように」
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