2009年5月30日10時50分
さまざまな細胞や組織になりうるヒトの新型万能細胞(iPS細胞)を遺伝子を直接使わずに作製することに、米韓の研究チームが成功した。遺伝子をそのまま細胞に入れるとがん化する危険性があったため、たんぱく質だけを細胞に入れて作ることで安全性を高めた。マウスの細胞では4月に米独チームが成功していたが、ヒトの細胞では初めて。再生医療の実現に向けた大きな成果といえる。
米ハーバード大のキム・カンスー准教授らのチームが29日、米科学誌セル・ステムセル電子版で発表した。
京都大学の山中伸弥教授らが最初に開発したiPS細胞の作製法では、ウイルスを使って4遺伝子を細胞に入れる。しかし、ウイルスは、もとから細胞にある遺伝子を傷つけるなどして細胞ががん化するおそれがあった。
米韓のチームは、この4遺伝子をヒトの培養細胞に導入し、iPS細胞への変化をうながすたんぱく質を作らせた。この培養細胞からたんぱく質を含む抽出液を取り出し、その中で新生児の皮膚細胞を培養した。たんぱく質は皮膚細胞に入り込みやすくなるように工夫した。
抽出液を交換しながら、培養を続けると8週間後にiPS細胞ができ、マウスに移植すると神経や筋肉などさまざまな組織ができた。iPS細胞ともとの皮膚細胞の遺伝情報は同一で、外部からの遺伝子が入っていないことが確認できたという。
ただ、ウイルスを使った従来の方法に比べ、iPS細胞の作製効率は10分の1と低く、研究グループは「さらなる作製法の改良が必要」としている。(林義則)