2009年5月30日 1時8分 更新:5月30日 1時16分
さまざまな細胞に分化するヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を遺伝子やウイルスを使わず、たんぱく質だけで作ることに、米ハーバード大などのチームが成功した。マウスでは米独のチームが4月に初めて成功を報告しているが、ヒト細胞では世界初。遺伝子の影響などで起きる細胞のがん化を防ぎ、治療用に使える安全なiPS細胞の作成にまた一歩前進した。29日、米科学誌「セル・ステムセル」電子版で発表した。
金洸秀(キムカンスー)・同大准教授らの研究。山中伸弥・京都大教授が開発したiPS細胞は、四つの遺伝子をウイルスを使い細胞の核に入れて作られた。しかし遺伝子や運び役に使うウイルスが予期せぬ働きをし、細胞ががん化する恐れが高く、遺伝子、ウイルスなしの作成法が模索されてきた。
金准教授らは、山中教授の4遺伝子にアミノ酸の一種、アルギニンなどをつなぎ、ヒトの細胞膜を通り抜けやすい性質を持つよう改造。この遺伝子を、ヒト由来の培養細胞株に組み込み、たんぱく質を作るようにしたうえで、細胞株から抽出した液の中にヒトの新生児皮膚細胞を入れた。
抽出液に入れた後、培養するという処理を約8週間続けると、iPS細胞ができた。ウイルスを使う手法に比べ2倍も時間がかかり、作成効率も10分の1と低いが、細胞の性質は従来と同等だった。【奥野敦史】
【ことば】iPS細胞
神経、筋肉などさまざまな種類の細胞に分化する能力を持つ「万能細胞」の一種。山中伸弥・京都大教授らが06年に世界で初めてマウスでの作成を報告した。07年には山中教授チームと米のチームが同時にヒト細胞での成功を発表。患者自身の皮膚細胞などからiPS細胞を作り、病気やけがで機能を失った臓器、組織を作れば、拒絶反応のない再生医療が実現すると期待されている。