中日新聞は「クジラ食害論」を信じているのだろうか
中日新聞のサイトに5月24日に掲載された社説は、「難航IWC 溝は深いが望みはある」 だ。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2009052402000045.html
この社説では、反捕鯨国との和解を日本はあきらめずに目指すべきだとしているが、
以下に引用した後半部分に疑問を持ったので、赤で示した部分を中心とした質問メールを送っておいた。
【日本は正常化に向けた取り組みを放棄してはならない。
南極海での鯨類はナガスクジラなど一部を除き順調に回復している。発展途上国などの将来の食料問題を
考えれば鯨類の持続的利用は真っ先に挙げられるテーマだ。また北西太平洋ではクジラによるサンマや
イワシなどの大量捕食が問題となっている。これらは調査捕鯨で判明したことだ。
一方、水産関係者によると動物性タンパク質を増やすには、畜産よりも漁業生産のほうが二酸化炭素
(CO2)排出量は十分の一以下で済むという。地球環境問題からはこの指摘は無視できない。
日本はこれらの「世界共通語」を積極的に活用し、反捕鯨国との和解に取り組んでもらいたい。】
最後の 「世界共通語」 とは、「食料問題解決のための鯨類の持続的利用」、「二酸化炭素排出削減」、
そして 「クジラ食害論」 なのだろうが、どれも捕鯨サークルの主張をそのまま信用していて恥ずかしい。
「クジラによるサンマやイワシなどの大量捕食が問題となっている」 とあるが、誰が問題にしているのか。
確かに大型のクジラは大量の餌を食べるわけだが、サンマは何度も出漁制限をするほど豊漁だ。
イワシが減ったのはレジームシフトという海水温変動が原因で、禁漁にしないから資源が回復しないのだ。
調査捕鯨の委託元である水産庁(森下参事官)は、「クジラ食害論」 の存在を、表向きには否定している。
鯨論・闘論に寄せられた 「食害論」 に関する質問に、次のように、中立の立場であるように答えている。
http://www.e-kujira.or.jp/geiron/morishita/1/#c50
【一言でいえば,世界の海の中にはクジラと漁業が競合している可能性があるホットスポットがあるらしい
というのが,もっとも正確ないい方だと思います。
捕鯨をめぐる議論の中では,日本が,「クジラが世界中で漁業資源を食べつくしているから,間引き
してしまうべきだ」と主張しているように言われたり,逆に,「南極海ではクジラはオキアミしか食べて
いないので,(世界中で)漁業との競合はない」という単純化された反論が行われたりしていますが,
両方とも極論です。
捕鯨問題ではしばしばこのような単純化された,白か黒かといった主張が行われ,
不要な対立を生んでいます。
… 「漁業管理においてクジラの捕食量が無視できない可能性があるので,それを調査して,
生態系モデルを作って検討する」というのがこの調査の目的です。
… いずれにしても,世界各地での漁業資源の悪化をすべてクジラのせいにするのも極論で,
競合がどこでも起こっていないと否定するのも極論です。】
官僚のレトリックは解釈が困難だが、「可能性があるらしい」 などと、わざとあいまいな表現で、
「調査捕鯨を継続しないと何もわからない」という雰囲気作りをして、予算がほしいだけだろう。
殺す直前に食べた魚がサンマやイワシだっただけで、漁業と競合する可能性があると言いたいようだが、
サンマの最大の天敵はクジラではなく、スルメイカであることは既知なので、もう調べる理由がない。
イワシの資源量が減ったまま回復しない理由は上述の通りで、これももう調べる理由がない。
つまり、「漁業資源の悪化をすべてクジラのせいにする」極論を唱えているのは、捕鯨サークルである。
アフリカへの漁業協力の会議に、なぜか日本鯨類研究所が参加して、漁業との競合について講演している。
「ウーマンズフォーラム魚」でも小学生に、クジラを間引くべきだと教えている。
したがって 「クジラ食害論」 とは、反捕鯨国が日本を非難するためにでっちあげた話ではない。
職業として新聞を発行している人たちが、上記の事実を調べられなかったとは、とても信じられない。
他の主張も、捕鯨サークルの主張そのままで、何の裏付け調査もないままに社説に書いていると思われる。
発展途上国の食料問題を解決するのはイモだとされ、日本の農林水産省も品種改良に取り組んでいる。
農地と水の確保は課題だが、イモの生産拡大ならば農民は土地を離れることもなく、社会の安定に寄与する。
タンパク源として魚類・鯨肉に期待しても、既に資源量に余裕はなく、非常に限定的なものとなるだろう。
それにカリブ海やアフリカ西岸を対象にした研究では、クジラ食害論を否定する結果が得られているのだし。
「二酸化炭素排出削減」 のために鯨肉利用というのは、あまりにも我田引水のレトリックだ。
トータルで考えるのが科学的議論だが、「捕鯨船の燃料のみ考慮」 ではあまりにも不完全な条件だ。
確かに畜産も含めて農業では、特にメタンの発生が問題で、二酸化炭素換算すると影響は大きくなる。
しかし、バイオマスエネルギー利用が普及すれば、二酸化炭素排出量は相殺されると期待されている。
クジラを殺す理由が作れるならば、何でも利用しようということなのか(原発推進にも似ている構図)。
中日新聞が回答することを期待しながら、IWC関係のニュースをチェックしておこう。
追記(5月25日):
この記事を投稿直後の、テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」では、ウシ由来のメタンを抑制する方法として、
帯広畜産大学・高橋潤一教授のグループが開発した、「システイン含有飼料」 が紹介された。
http://www.obihiro.ac.jp/ichiran/takahashi_junichi.html
また、家畜の糞尿の発酵でメタンを生産するバイオガスプラントも紹介された。
メタンの元をたどれば牧草だから、二酸化炭素は再び牧草に固定化されると考えてよいことになる。
農林水産省内の組織である水産庁が、日本の畜産研究について情報を全く持っていないはずはない。
しかも帯広畜産大には、日本鯨類研究所と共同研究をしている福井豊教授もいるのに。
http://www.obihiro.ac.jp/ichiran/fukui_yutaka.html
それとも、捕鯨をする理由づけに邪魔になりそうなものは、日本の研究成果でも無視するということか。
(最終チェック・修正日 2009年05月25日)
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IWC小作業部会について石破農相は「雰囲気はずいぶんと改善をしたと聞い」たそうだ
6月のIWC年次会合までに合意を目指していた小作業部会は、対立が解消されず結論先延ばしと報道された。
共同通信の配信記事は次の通り。
http://www.47news.jp/CN/200905/CN2009051901000222.html
【日本の沿岸捕鯨再開などを検討してきた国際捕鯨委員会(IWC)の作業部会は18日、条件となる
調査捕鯨縮小などとの調整がつかず、結論を1年先送りすると発表した。当初目標だったポルトガルで
6月に開く総会での合意を断念、同総会の検討を経て、2010年総会で決着を目指す。
日本の4拠点での沿岸捕鯨容認や南極海での調査捕鯨の縮小・廃止をパッケージとした、今年2月提示の
妥協案を詰めることが事実上できなかった。反捕鯨国ながら日本の立場に理解を示してきた米国のホガース
IWC議長が6月総会で任期を終えることもあり、日本の立場は今後、厳しさを増すことも予想される。
作業部会で日本は、合意後に設定される5年の暫定期間にミンククジラ計150頭の沿岸捕鯨枠を設けると
提案。IWC科学委員会は5月末から同提案の検討、評価を開始し、10年総会に向け提言としてまとめる。
2月の妥協案は網走(北海道)、鮎川(宮城県)、和田(千葉県)、太地(和歌山県)からの
ミンククジラの日帰り捕獲を盛り込んでいた。】
IWCが5月18日に公開した報告書は、PDFで提供されている。
http://www.iwcoffice.org/_documents/commission/IWC61docs/61-6.pdf
結論を1年先送りしたのは、日本などの提案を検討するには時間が足りないということが主因だろう。
それに 「持続可能性」 の定義や、資源量推定方法でまずは合意しないと、話は何も進まない。
加えて地球温暖化も含めて、海洋生態系モデルの再検討も必要だし。
日本の沿岸捕鯨枠として150頭は書いてあるが、調査捕鯨については具体的な頭数はなかった。
事前にリークした情報では、調査捕鯨で650頭を獲ることを日本は主張したようだ。
例えばBBCの記事は次の通り。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8042713.stm
しかし、水産庁などの捕鯨関係者から何も情報が出てこないので、石破農相の記者会見を引用しよう。
会議に参加した森下氏からなのか、「雰囲気はずいぶんと改善をしたと聞い」たそうだ。
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/090519.html
【記者 クジラですけれども、IWC(国際捕鯨委員会)の作業部会で結論を先送りということになりまして、
今後、日本政府としてIWCの正常化に向けて、どういうスタンスで臨まれるかを、改めてお伺いします。
大臣 18日に小作業部会議長から、結果の報告というのがありました。これによりますれば、6月22日より、
ポルトガル(の)マデイラで開催される (第)61回IWC年次会合までに、IWCの将来に関するパッケージ合意案を
作成するという目標は達成できなかったというふうになっておるところでございます。
一方、雰囲気はずいぶんと改善をしたと聞いておりまして、鯨類、クジラ類の保存管理に関する問題の
解決に向け、建設的な議論が行われるなど、一定の成果も得られたとされておるところでございます。
小作業部会は、この結果を受けまして、今次IWC年次会合に対し、現在行っているIWCでの努力を更に一年
継続し、来年開催されます予定の(第)62回年次会合で決定を行うことを勧告するということになって
おるわけでございます。
パッケージ合意の中心となります我が国の調査捕鯨や沿岸小型捕鯨に対する各国の立場の差は、依然として
大きいものがございまして、先行きは楽観視できないということであります。従来から申し上げております
ように、当省としては、沿岸小型捕鯨を否定する、あるいは調査捕鯨の継続が不可能となる、そのような
提案は受け入れられないと、このような姿勢に基づきまして、今次年次会合を含め、引き続き正常化の
議論が進展するよう努力を続けてまいりたいということでございます。
記者 IWCの関連なのですけれども、正常化に向けて、議論は続けられているのですけれども、一方で、
なかなか正常化しないと。相当、感情的な対立があるというふうに聞いております。そういう中で、
日本がIWCに留まって引き続き正常化に向けて努力する国益というのは、どういうところにあるのでしょうか。
大臣 それは、その中にあって議論をする、ということが国益なのだと思っておりましてね。これは、
国際組織、古くは国際連盟だってそうでしょう、あるいは、NPT(核不拡散条約)体制というものもそうだと
思います。そういうような国際的な枠組みの中において、粘り強く主張というものを繰り返し、
賛同する国を得る。
そしてまた、なかんずく、今回のIWCの問題について言えば、科学的知見に基づいて、我々はやっている
わけです。法的な解釈の違いとか、あるいは領土的な利益の対立とか、そういうことをやっているわけ
でない。科学的知見に基づいて、我が方は主張を展開しているのであって、その中において、まさしく
的確にご指摘になったように、感情的な話になっちゃうと。けれども、「科学的な知見に基づいて議論
すればこうなのでしょう」ということになった時に、それに賛同する国は徐々に増えつつあるわけで
あって、だとすれば、この粘り強い努力というものを続けていくということは、我が国の国益に資する
のではないかと私は思っている。
これは、常に秤(はかり)にかけて議論すべきことであって、「では、もう、やめた」と、「こんなもの
留まる意味なし」ということになった時に、さて、その時は、それはもう、「よくぞやった」みたいな
話になるのかも知れないが、本当にそれで、これから先、我が国の目指していることが成就するか、
それに資するものであるか、といえば、私はそうではないと思っております。】
「一定の成果」 とは具体的に何のことなのか、水産庁は情報を出してほしいものだ。
「科学的知見に基づいて議論」 とあるが、そのデータの集め方と解釈が問題となっているのに、
石破農相は、水産庁捕鯨班とその取り巻きのブリーフィングを信じているのだろうか。
もしかして、「クジラ食害論」 を 「科学的知見」 と思っているのだろうか。
調査捕鯨の本当の目的とは、科学的調査ではなく、単なる鯨肉の確保と翌年の調査費用の捻出である。
事故米問題や無許可専従問題では、あれほど農林水産省改革を唱えていたのに、本当に知らないのだろうか。
IWCでの交渉を、「外交交渉におけるモデルケース」 にでもしようと、本気で思っているのだろうか。
農相は 「粘り強い努力」 が 「我が国の国益に資する」 と信じていても、捕鯨サークルは違う。
ただし一つだけ期待できるのは、IWCから脱退しない方針を石破農相は持っていることだ。
捕鯨サークルはIWCからの脱退をほのめかし、新たな管理機関を作ろうと主張している。
農林水産省改革を進める大臣なのだから、官僚の勝手な行動を戒めるようにしてほしいものだ。
ところで、石破大臣のブログを見たところ、あるコメント投稿者が、私のブログ記事を引用していた。
ミツバチ大量死に関する記事だったが、石破大臣はこのブログを見てくれただろうか。
まあ、個人のブログ記事を引用資料にしたり、主張の根拠にするのは控えた方がいいと思うが。
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http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/trackback/1500494/61329972
◇迷いクジラと戸惑う捕鯨ニッポン 【「鳴き声」効果なし 田辺の迷いクジラ 】(5/20,紀伊民報) http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=167980 【金属音に反応 田辺の迷いクジラ】(5/22,紀伊民報) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090522-000000..
2009/5/23(土) 午前 1:34 [
クジラ・クリッピング
]
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グリーンランドで36年ぶりにホッキョククジラ漁が始まる(カナダでは捕獲割り当て増加)
日本は小規模沿岸捕鯨について、先住民生存捕鯨と同様の扱いをするように求めている。
しかし、商業的性格を有しているとの指摘や、調査捕鯨の停止が交換条件とされており、合意に至っていない。
北極圏のアラスカ・カナダ・グリーンランドの先住民生存捕鯨について知りたくても、
日本国内の報道はほとんどなく、いつも調査捕鯨の邪魔をする団体の話ばかりで、うんざりしている。
グリーンランドでは、IWCによりこれまで許可されていたミンククジラとナガスクジラに加えて、
2008年から2012年までは、毎年2頭のホッキョククジラの捕獲が認められている。
ただし2008年は捕獲を保留したため、その2頭分が繰り越され、今年は合計4頭まで捕獲可能である。
グリーンランドの新聞 Sermitsiaq の英語版によると、1973年以降で初めての捕獲が行われたそうだ。
http://sermitsiaq.gl/erhverv/article82906.ece?lang=EN
【For the first time in 37 years a Greenlandic whale has been hunted in Qeqertarsuaq,
Greenland, after it received special permission to hunt just one in 1973 as part of the
town's 200 year anniversary.
The latest whale will be processed and its meat and blubber handed out as gifts to members
of the community on 21 June to celebrate the introduction of self-rule to Greenland,
currently a home rule country within the greater Kingdom of Denmark. 】
ホッキョククジラ(bowhead whale)は1932年に捕獲禁止となり、準危急種に指定されている。
伝統的な捕鯨の町である Qeqertarsuaq では、町の200年祭の1973年に一度だけ捕獲許可がもらえた。
そして今回はIWCの許可を得て36年ぶりに捕獲し、住民に肉と脂身を分配した。
捕獲したホッキョククジラは公的にはグリーンランド政府の財産であり、漁の費用も政府が負担し、
住民に分配した肉と脂身はプレゼントという扱いだから、商業性の排除を確実に実施している。
そして余った骨や眼は、研究用として生物学者に渡されている。
ここには書いていないが、WDCSの記事では、DNA分析にも利用されるとある。
http://www.wdcs.org/news.php?select=372
また、これも書いてないが、クジラの骨は工芸品の材料としても利用されるだろう。
他の地域はどうかというと、アラスカでは4月23日にホッキョククジラ漁が始まっていた。
アラスカの新聞 The Nome Nugget の4月30日号で、1面と14面に写真が出ている。
http://www.nomenugget.net/20090430/index.php
http://www.nomenugget.net/20090430/20090430.pdf (PDF版)
IWC未加盟のカナダ政府は、ホッキョククジラの最新資源量を独自に推定し、絶滅の危惧はないとして、
ヌナブト準州(Nunavut)でのホッキョククジラ捕獲枠の増加を決定した。
http://www.cbc.ca/canada/north/story/2009/05/05/cosewic-listings-bowhead.html
http://www.cbc.ca/canada/north/story/2009/05/06/nunavut-bowhead.html
昨年までの許可は、2年間または3年間で1頭のみだったが、今年から3年間は毎年3頭となった。
2004年の航空機からの観察で1万4千頭を超える資源量が推定された。
そしてヌナブトで毎年3頭の捕獲をしても、ホッキョククジラ資源は持続可能であると結論された。
こういった小規模な伝統捕鯨の姿は、日本が主張する沿岸小型捕鯨とは大きく異なると感じてしまう。
ならば、通常の漁業もしながら年に何回かクジラも獲るなどの妥協案を、現実的に検討してほしいものだ。
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アイスランドの鯨肉の大半は観光客が消費しているそうだ
日本で報道される捕鯨関連ニュースは、シーシェパードの妨害行為ばかりで、
ノルウェーやアイスランドの情報が、日本語報道ではほとんど伝わってこない。
仕方なく、英語やドイツ語での報道を探して、その商業捕鯨を行う二カ国の情報を得ている。
また、ノルウェー語とアイスランド語の参考書と辞書を購入して、まだまだ知識は未熟であるが、
現地報道の中から、確認したい重要な部分をなんとか探し出して、情報の補足に努めている。
この連休中にノルウェー語の勉強を進めるつもりだったが、ドイツ語検定2級を優先することにした。
ということでしばらくは、英語とドイツ語報道のチェックが中心となる。
ノルウェーは既に今季の商業捕鯨を開始しており、4月11日に最初のミンククジラが捕獲された。
補獲割り当ては年間885頭で、2013年までこの頭数に設定している。
しかし悪天候などの要因で、いつもこの上限に到達せず、今年も500頭強で終了するだろう。
http://www.wdcs.org/news.php?select=363
アイスランドでは選挙の結果、EU加盟を訴える連立政権が維持された。
漁業相は以前、捕獲割り当ての見直しに言及していたが、現時点で捕鯨についての意思表明はない。
EU加盟条件に捕鯨中止が含まれるかどうか、今後の動向に注目したい。
アイスランドの捕鯨とホエールウォッチングについてのAFPの記事は次の通り。
http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5gazCPxAevtXBNlR7uUtAANZ7EERQ
前政権が設定した補獲割り当ては、ナガスクジラ150頭、ミンククジラ150頭で、去年より激増した。
捕鯨の解禁日は6月1日であるが、地元では 「月曜日は不吉」 とのことで、翌2日から操業するという。
漁業が主要産業だからなのか、捕鯨業者が 「クジラ食害論」 を信じているのが気になる。
海洋生態系のバランスを保つために、捕獲割り当ての設定が必要だそうだ。
ただ過去の乱獲への批判からか、体長20m未満のクジラや、子連れの母クジラは獲らないと決めている。
奇妙なことに港には、捕鯨船と、ホエールウォッチングの観光船が並んで停泊している。
双方ともクジラを資源としているが、捕獲割り当てについては、当然ながら意見が異なっている。
観光客1人当たり、1日平均45ユーロを使うそうで、観光も漁業に次ぐ重要な産業だ。
ホエールウォッチング観光に来た、イギリス人とアメリカ人のインタビューが掲載されている。
イギリス人は、「捕鯨には大反対だ。捕鯨を正当化する科学的根拠など無い。金儲けのためだけだ。」 と。
それに対してアメリカ人は、「捕鯨は文化的なもので、伝統の問題だ。アイスランドの人たちにとって、
捕鯨が重要であることは理解できる。特にこのような経済危機のときには。」 と、理解を示している。
アイスランドに住んで12年になるドイツ人 Angela Walk によると、
「アイスランドの鯨肉の大半は、観光客が興味本位で食べている」 とのことだ。
まあ、食べる食べないは、その人が決めることだから、反捕鯨国の人でも、食べる人がいても不思議ではない。
特に観光では、何度も行くことがないため、珍しい食べ物があれば試してみようと思うだろうし。
逆に日本人の私は、何度も書いているが、鯨肉を食べないと決めている。
ただし私は、他人に食べるなと言ったことは一度もなく、自分は食べないと言っているだけだ。
観光客の消費量はわからないが、捕獲頭数を増やしても、国内消費の道があるということか。
ということで、捕鯨推進の人たちは、アイスランド観光でもして毎日クジラ料理を食べてはどうだろうか。
アイスランド経済を助けることにもなるし、日本では少ないナガスクジラもたくさんあるようだし。
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将来の食料問題を解決するのはクジラではなくイモだ
4月25日午後11時10分からのBS特集は、「イモが世界を救う」 というタイトルだった。
【気候変動や食糧危機に今、「イモ」が立ち向かおうとしています。南米・アフリカ・そして日本、
世界各地ですすむ「イモ救世主化計画」の最前線に迫ります。
世界の気候変動や食糧危機に「イモ」が立ち向かおうとしています。地球温暖化にも耐えるイモをつくろうと、
立ち上がった南米ペルー。アフリカ・ナイジェリアでは、日本人研究者がヤムイモの増殖方法にとりくみます。
また、ウガンダでは、栄養不足に苦しむ子どもたちを、ある日本のサツマイモの品種で救おうという試みが
始まろうとしています。世界各地で動き出したイモ救世主化計画。イモの持つ可能性を、堀りさげます。】
2008年が 「国際イモ年」 で、今年はそのフォローアップ期間ということで、関連する番組のようだ。
http://www.potato2008.org/en/index.html
http://www.jaicaf.or.jp/fao/IYP/IYP_1.htm
番組では重要な食料であるイモとして、ジャガイモ以外にも、サツマイモ、ヤムイモが取り上げられた。
栽培方法の改善や品種改良に、日本人研究者が関わっていることも含まれていた。
ヤムイモ栽培では種イモを3分割するが、イモはそれぞれ一個しかできず、生産性が悪くて高価なイモだ。
そこで挿し木法でたくさん苗を作って栽培すれば、一気にヤムイモの大増産が可能となる。
苗床には、もみ殻をいぶして殺菌効果を高めたものを使い、現地で手に入る材料だから導入しやすい。
今は実験栽培の段階だが、農家が苗の作り方を学んで普及すれば、食料問題の解決につながるだろう。
ペルーのジャガイモは最近、気温上昇のためか、カビなどに侵される頻度が増えてきた。
そこで国際ポテトセンターでは、高温や乾燥などに強い品種の開発に注力している。
例えば、水を長期間与えなくても枯れなかった品種は、干ばつに耐える品種として人類を救うかもしれない。
http://www.cipotato.org/
ウガンダでは小児の栄養状態改善のため、ビタミンA・β-カロテンが豊富なサツマイモを開発したが、
味が甘すぎるということで、主食として毎日食べる気がしないと不評であった。
(ちなみに、β-カロチンを生合成する遺伝子を入れたイネが開発されてもいるが、実用化は遅れている。
環境保護団体は遺伝子組換え作物に反対だし、先進国は特許で儲けようとしていると批判している。)
たまたま日本の農業・食品産業技術総合研究機構(農研)では、甘くないサツマイモの品種を持っていた。
日本では人気がなくても、アフリカならば主食用として、毎日たくさん食べてもらえると予想していた。
そしてウガンダのビタミンAリッチな品種と交配することで、食べやすいサツマイモができると期待される。
イモ類の栽培は、イネのような大量の水は必要とせず、比較的単純な農耕技術で可能であり、
特に発展途上国では、食文化を変えずに新品種を導入するのだから、人々の抵抗感も少ないはずだ。
このように農林水産省所管の研究機関が、食料問題の解決のためにイモの研究に尽力しているが、
水産庁と捕鯨サークルの仲間たちは、我田引水だが、捕鯨で食料問題を解決しようと主張している。
「海の幸に感謝する会」 の会報 「NEWS 海の幸」66号にある、日本捕鯨協会が自民党の部会で説明した
「調査捕鯨を継続することの意義」 という文書中で、捕鯨が食料自給率の低い国を救うと書かれている。
http://www.umisachi.jp/n_umisachi.html
【(食料問題と捕鯨文化の継承への対応)
さらに、捕鯨は中長期的視点に立って食料問題としても考えられねばならない。陸上での食料増産の限界が
地球環境の点などから指摘されている中で、鯨を含む海洋生物資源を持続的に利用していく必要性は、
今後ますます高まっていくであろう。近い将来に人類が深刻な食料不足に直面することが避けられない
状況にあって、わが国のように食料自給率の低い国がこのような食料生産手段の選択肢をひとつでも
多く保持しておくことは国策としても当然のことといえよう。】
ここで不思議なのは、主食はあくまでも炭水化物のはずなのに、鯨肉を過大評価しているところだ。
タンパク源の一つとして注目することは理解できるが、食料問題を解決する手段にはならないだろう。
「海洋生物資源に食料を依存する海洋国家日本」 という表現もあるが、これは誇張しすぎだ。
日本人の食事をカロリーベースで考えると、魚介類は昔も今も約20%程度で、穀類の方が主体だ。
このまま海の温暖化が進めば、クジラ類が絶滅する可能性もあるのだから、温暖化対策に注力すべきだ。
そして温暖化対策は、水産資源だけではなく、農業生産への悪影響も緩和するはずだ。
コメ・コムギ・イモなどの主食用農産物と、生産に必要な農業用水の確保の方が重要な課題のはずだ。
特に水問題は深刻な状況で、水源をめぐる国際紛争も多発すると懸念されている。
水源の枯渇や塩害、そして砂漠化など、取り組むべき課題は、陸上での食料生産の場にある。
日本国内でも、農業生産者の高齢化に伴う耕作放棄や、法人による大規模生産の制限など問題が多い。
今は雇用対策として農林水産業に若者を受け入れようとしているが、単なる予算の分捕り合戦である。
日本の食料問題を本当に解決しようと思っているのだろうか。
また同文書中には、いわゆる 「クジラ食害論」 を信じているような記述もあり、気になるところだ。
【北西太平洋では、鯨がサンマ、イワシ、イカなどの有用資源を大量に捕食していることが
調査の結果明らかになり、我が国漁業との競合が大きな問題となっている。】
更に水産庁でも、北太平洋捕獲調査の目的を次のように明記しており、クジラ食害論を補強したいようだ。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/090421.html
【鯨類の捕食が漁業資源に与える影響評価に関するデータの収集を目的として実施する。】
近年のイワシの減少は、海水温の長周期変動というレジーム・シフトが原因であり、
日本近海のみ資源量回復が見られないのはクジラのせいではなく、水産庁がイワシの禁漁をしなかったから。
水産庁の森下氏が言う 「クジラが大量に捕食するホットスポット」 とは、日本近海のことなのか。
不思議なことに、日本が漁場としている海域のみ、クジラの食害が見られるということなのか。
自分の仕事や研究テーマがなくなると困る人もいるだろうが、世界に貢献したいなら、
真の課題は何なのかを認識して、しがらみを捨てて、解決に努力してほしいものだ。
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