感染が拡大する新型インフルエンザ。市民の健康被害だけでなく、都市機能の低下に伴う経済損失、社会的に立場の弱い人たちへの負担増など阪神大震災や台風23号の被災状況と重なり合う。目に見えぬ脅威に社会は立ち向かうことはできるのか--。
神戸市で新型インフルエンザが発生したのに伴い、ひっきりなしに問い合わせが続く市発熱相談センター(078・335・2151)で、市職員OBの保健師が一役買っている。95年の阪神大震災で各地の保健師らの応援を受けたのを機に、他都市への災害派遣チームが作られた。激務に追われる同センターへ“派遣”されることに、矢田立郎市長は「必要な人材の手配は震災を経験した神戸だからこそ迅速に対応できる」と話した。
保健師が4人1組のチームで被災地に行く制度は01年度に始まった。07年の新潟県中越沖地震など各地の応援に入った実績がある。
同センターは、市内感染者の確認を受け、16日午前9時から7回線に増設され24時間対応になった。相談件数も17日1875件▽18日2089件▽19日2678件(いずれも午後5時現在)--と増加。20日午後3時からは、15回線30人態勢にさらに拡大する事態となった。
このため専門職を同センターに配置する市健康部の保健師、田中由紀子主幹がOBに応援を求めた。田中主幹も、04年の台風23号による水害に見舞われた豊岡市に派遣された経験がある。
「震災の時と同じように混乱し、人手が足りなくなることが予想された。一時も早く対応しなくてはと思った。OBの中にも他都市へ派遣された経験者もおり、頼めば応援に来てもらえると考えた」と田中主幹は説明する。
OBは19日2人▽20日2人▽21日4人▽22日1人▽23日1人--が参加。同部は1人当たり7~10日の応援要請を考えている。
同センターで20、21日に電話応対した元市職員で保健師の三木直美さん(61)=姫路市=は震災時、中央区役所に勤務していた。「保健師は震災時(に受けた他から)の応援が身にしみている」という。04年の新潟県中越地震に被災地の小千谷市で1週間応援した三木さんは「職員が健康でないといいサポートもできない。市民の不安を少しでも解消できたら」と24日も同センターに通う予定だ。【山下貴史、野田武】
県は95年の阪神大震災以降、さまざまな自然災害を想定した防災訓練を重ねてきた。新型インフルエンザ感染にこれまでの訓練はどう生かされたのか。
井戸敏三知事は22日の記者会見で「今までの防災訓練や(災害対策本部などの)運営訓練が、県内で大きな混乱を起こさなかった要因の一つだと考えられる」と述べた。
県防災計画室は今年2月、海外で新型インフルエンザが発生し、日本では感染が確認されていないという想定で、知事ら20人以上の対策本部員が参加する運営訓練を行い、昨秋の患者搬送訓練でも病院や保健所など関係機関との連携を確認した。
今回のインフルエンザの感染は、訓練の想定と異なり国内の感染となったが、対策本部設置から現在まで、ほぼ訓練通りに情報の伝達や共有が出来ているという。
自然災害を想定した防災訓練では、情報を集約する事務局を設置し、集まった情報を対策本部に報告する。情報を共有する機関は異なるが、伝達の流れは今回の新型インフルエンザの場合と同じ。新型インフルエンザの対策本部運営も防災訓練が生かされた形だ。
今回のウイルスは弱毒性だったが、いつ強毒性が発生するか分からない。今回の経験を踏まえた訓練が重要となる。【高山梓】
新型インフルエンザの感染拡大で手洗いやうがいなど基本の衛生対策が見直されるなか、甲南女子大(神戸市東灘区)の学生らが、日本語が不自由なブラジル人労働者やその子ども向けに、母国語のポルトガル語で表記したマニュアルを作り、インターネットを通じて公開を始めた。
学生らは失業や派遣切りにあった南米系の労働者と家族を支えようと、昨年末に「外国人労働者に暖かい冬を実行委員会」を結成。現在、6人が参加し、食料などの物資を集めて届けてきた。
新型インフルエンザの世界的な広がりを受け、「すぐできる予防法を伝えよう」と企画し、予防対策は大学の保健室担当の職員に学んだ。若年層の感染者が多いため、子どもでも分かりやすいように、ひらがな入りの日本語版と母国語のポルトガル語版を作った。学生自身がモデルになって手洗いの手順を写真を添えて示し、うがいの仕方も紹介している。
実行委ホームページ(http://blog.canpan.info/atatakai_fuyu/)から印刷できる。状況が落ち着けば、滋賀県愛荘町のブラジル人学校に石けんと手拭きタオルも送る予定。大学院生の尹梨香(ユンリヒャン)さん(23)は「体を守ることに国籍は関係ない。現時点の緊急対策はもちろん、秋以降の感染拡大も心配。役立ててもらいたい」と話している。【青木絵美】
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毎日新聞 2009年5月24日 地方版