前回のコラム「日本に住みたい、カナダに住みたい」の中でカナダの移民政策について取り上げたが、断定的に書いてしまい、誤解を招く部分があった。読者からの指摘を受け、改めてカナダ在住の弁護士に話を聞いた。
カナダにはたくさんの国籍の人が滞在し、時には帰されることもある。それぞれのケースは事情が異なるために一つの方程式には当てはまらないという。弁護士ネーザン・ガナパシさんにうかがうと、カナダの移民法にある「人道主義と思いやり」(Humanitarian and compassionate grounds)は不法滞在を考慮したものではなく、それを奨励するものでもない。だが、不法滞在が発覚する前に自分から出頭した場合、人種・国籍などに関係なく、この「人道主義と思いやり」により、カナダに残れるという可能性があるそうだ。ただ、ほかの犯罪歴があれば該当しない。残留が可能かどうかは移民局大臣の判断によるが、法律的に大臣の判断が出た後でも裁判をすることができ、判決が最終決定になるという。
「人道主義と思いやり」は、適用される場合とされない場合がある。例を挙げると、不法滞在の中国人男性がカナダ人女性と結婚し、移民申請をした際、不法滞在がわかってしまった。しかし、配偶者が妊娠していたため07年12月、大臣の判断で滞在が許可された。
06年11月の別のケースでは、イラン人学生が自国から奨学金をもらってカナダに来た。子どももいた。卒業後に移民申請をした際、「卒業したら戻ること」という自国の奨学生の条件が問題になった。このケースでは、4年間、カナダで生活をしていた子どもの社会はカナダであり、残されるべきだという理由から、親もともにカナダに残るべきだとの大臣判断で滞在が許可された。
インターネットサイト「thestar.com」に今年4月24日、韓国人の母親が不法滞在・就労をしていたため、カナダ国籍の子どもとともに韓国に帰国させられたというニュースがあった。この場合は、裁判に持っていく前に帰国したそうだ。子どもはカナダ国籍のため、後見人がいればカナダに残ることが出来たが、母親が帰国させられるために一緒に韓国に連れて帰ったという。
この韓国人は不法就労が発覚する前に自ら出頭するべきで、逮捕されてしまえばカナダに残るのは難しいケースではあるが、ガナパシさんによると、裁判をしていたら、どんな判決になったかは分からないという。大臣の決定の後でも「人道主義と思いやり」が認められる可能性もあったということだ。
一方、裁判でも認められなかったケースもある。06年11月の判例では、メキシコ人夫婦と子どもが難民申請を出したが認められなかった。「メキシコでは健康保険がない、仕事もない、子どもの教育も満足に出来ない」ということは、難民申請が認められる理由にはならなかった。
この家族はその後、2度目の難民申請を提出した。「子どもが病気でメキシコでは治せず、カナダなら治療ができるために残りたい」という理由だったが、認められることはなかった。当局の判断は、子どもの病状は一度目の申請の時点から変わっておらず、新たな事情がないのに何度も難民申請を出してはならないということだった。難民申請をする理由は初回の申請時に明らかにする必要があるという。
最近のカナダの移民政策は、以前に比べ、カナダが必要とする職業資格や経験を持つ外国人は入国しやすくなった面がある。一方で、投資移住に必要な投資金額が上がったり、資格を持たない外国人は移住が難しくなった面もある。また、難民・移民認定の担当官が減ったために、以前よりも審査に時間がかかるということもあるそうだ。
中込恵子(なかごみ けいこ)さんのプロフィル
東京都出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。筆記具メーカーや外資系化粧品会社勤務を経て、1989年カナダ移住。日本語系新聞社勤務後、フリーライターに。2001年よりウェブショップFromwestを設立し、子ども向け語学教材の輸出を開始。2002年よりカスタムメードのカナダ親子ステイ・アレンジ業務をはじめる。1995年&1996年生まれのボーイズのママ。
2009年5月22日