記者として働き始めて約1カ月。「もう仕事には慣れたか」と先輩記者や取材先から聞かれる。「まだ右も左も分かりません」と答えるのだが、心の中では「こんな仕事慣れてたまるか」と思っている。決してバカにしているわけでもなければ、記者という仕事を選んだことを後悔しているわけでもない。
記者とは人々の喜怒哀楽を全身で受け止めなくてはならない仕事だ。少なくとも私はこの1カ月の間にそう感じた。「喜」や「楽」ならいいのだが、「怒」や「哀」をそのまま受け止めようとすると心が擦り減っていくような気がする。
記者という仕事に慣れるということは「怒」や「哀」に慣れてしまうこと。慣れてしまうくらいなら心を擦り減らした方がいい。青臭いかもしれないが、それが私の考える理想の記者像だから。【山川淳平】
〔播磨・姫路版〕
毎日新聞 2009年5月17日 地方版