日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)の救命救急センター着工凍結が、県議会保健福祉委員会の調査団への報告で明らかになり、県北地域で初のセンター整備構想が揺らいでいる。県の保健医療計画でも救命センターの偏在は課題に挙げられているが、経営母体が業績不振の中で、病院の機能拡大を求めるのは厳しい状況だ。大企業に地域医療を依存してきた自治体の責任が問われている。【八田浩輔】
救急病院は受け入れる患者の症状に応じて1~3次に区分されるが、国が特定の要件を満たした病院を指定する救命救急センターは最も重篤な3次に該当し、複数の領域にまたがる患者を24時間体制で収容する。県内には4カ所あるが、茨城町の国立病院機構水戸医療センターより北は空白地帯となっていた。
地域住民が必要とする産科や小児科など不採算とされる医療部門を抱える日製病院は、自治体病院のない日立市だけでなく、県北の地域医療を支える重要な役割を担う。自治体病院の多くが赤字経営に直面し、自治体本体からの繰り入れでしのぐ中、日製病院は「公」が担う社会サービスを肩代わりしてきたといえる。
だが、経営母体の日立製作所は09年3月期の連結決算の赤字額が過去最高となり、10年3月期も最終赤字を見込む。実際に最終赤字になれば07年3月期以来4年連続の赤字決算となり、営利目的ではない事業は見直し対象にされる状況に直面している。
産科医不足から4月に分べんと周産期センターの機能を休止したことで、日製病院本体も経営が圧迫。11日の県議会調査団への説明では、看護師と助産師を休止以前のまま確保していることを明らかにし、業績改善には医師確保と早期の分娩再開が不可欠であることを強調した。
地域医療について積極的に発言している城西大の伊関友伸准教授は「医療費抑制政策で診療報酬が抑えられ、もはや企業の社会貢献ではまかないきれない」とし、診療報酬引き上げの必要性を指摘する。そのうえで「不採算でもあり公的な役割が大きい救急や周産期医療は本来、県や関係する市町村による積極的な支援がされるべきだ」と訴える。
毎日新聞 2009年5月16日 地方版