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  人権擁護法案
   人権侵害による被害救済と人権啓発を進めよう!

「人権擁護法案」の成立を

 新しい人権擁護制度を目指す「人権擁護法案」の国会審議が行われています。この法案は、さまざまな人権侵害による被害を救済し、人権啓発の推進を図るために提案されたもので、マスコミの取材・報道規制を目的にしたものではありません。二十一世紀は「人権の世紀」といわれ、国際社会からもわが国の人権擁護推進が要請されています。誤解の多いこの法案の疑問点を解消するために、そのポイントを紹介しましょう。

図表:人権救済手続き
求められる新しい人権擁護制度
独立行政委員会の「人権委員会」を設置

 わが国では、憲法で基本的人権が保障されているのにもかかわらず、社会の国際化、高齢化、情報化の進展などに伴って、不当な差別や虐待など人権に関するさまざまな問題が起きています。また、国連が、国内人権機関の設置を促す採択(93年、パリ原則)を行い、国際社会の要請であることも、この法律が必要な背景の一つです。
この法案のポイントは、第一に不当な差別、虐待、その他の人権侵害をしてはならないことを明らかにしています。
 第二に、新たに人権委員会(独立行政委員会)を法務省の外局として設置することにしています。人権委員会の委員長および委員は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命することとし、その職権行為の独立性を保障しています。
 第三に、人権委員会を実施機関とする人権救済制度を創設し、その救済手続きやその他の必要事項を定めています。
 この人権救済制度には、「一般救済手続」と「特別救済手続」があります。
 一般救済手続は、広く人権相談に応ずるとともに、申出または職権により、人権侵害事件について任意の調査をし、「一般救済措置」(助言、指導、調整等)を行います。
 また、特別救済手続は、公務員、私人による差別的取り扱い、虐待等について、過料の制裁を伴う調査をし、調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助(資料提供、訴訟参加)の救済措置を講じることになっています。
 報道機関による犯罪被害者等に関する一定の人権侵害についても、表現の自由に十分配慮しつつ、特別救済手続の対象にしています。

禁止される人権侵害とは(要旨)

〈差別的取り扱い〉
(1)公務員の立場で人種等(人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病または性的指向)を理由とする差別的取り扱い
(2)商品、施設、役務等を提供して対価を得る立場で、人種等を理由とする差別的な取り扱い
(3)事業主の立場で労働者の採用または労働条件などに関して人種等を理由とする差別的な取り扱い
〈差別的言動等〉
(1)人種等の属性を理由として行う差別的言動
(2)職務上の地位を利用して相手方の意に反して行う性的な言動
〈虐待〉
(1)相手方に対して優越的な立場でする虐待(公権力の行使にあたる公務員や、社会福祉施設、医療施設、学校等の管理者・職員による虐待、児童や配偶者、同居の高齢者・障害者等に対する虐待)
〈差別助長行為等〉
(1)人種等の共通の属性を有する不特定多数の人に対し、その属性を理由に不当な差別的取り扱いをすることを助長する目的で、その属性に関する文書等を公表する行為
(2)同じ(1)の属性を理由に、不当な差別的取り扱いをする意思を広告、掲示等で公然と掲示する行為
※報道機関等による人権侵害(Q&A参照)
人権擁護法案のQ&A
Q1  人権委員会の独立性は十分に保障されているの?
 人権委員会は独立行政委員会として設置されます。その職権行使にあたって内閣や所轄大臣などから影響を受けることがないよう、委員長・委員の選任方法(両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命)、解職事由の制限、職権行使の独立の保障など、高い独立性が確保されています。

Q2  人権委員会は内閣府に置くべきではないの?
 人権侵害の調査や違法性の判断など法律的な専門性を有する職員が不可欠なので、そうした人材を擁する法務省の外局として設置するのが適切なのです。人権委員会には高い独立性が保障されていますから、法務省内の影響を受ける恐れもありません。外国でも、カナダ、英国、オーストラリアなどが独立性のある国内人権機構を司法省やそれに相当する行政機関に設置しています。

Q3  なぜ報道機関による人権侵害について人権救済が必要なの?
 報道機関による人権侵害については、報道機関自身が自主的にその予防・救済を図るべきであり、そのための自主的な取り組みは尊重されなければなりませんが、平成九年以降の神戸連続児童殺傷事件や東電OL殺人事件報道が社会問題化したように、過剰な取材によって、犯罪被害者やその家族、少年などのプライバシーが侵害され、自らその権利を守れないのも事実です。その現状に照らすと、弱い立場にある一定の人権侵害については人権救済制度の中で、救済手続きを整備する必要があるからです。

Q4  報道機関の人権侵害に対する人権救済制度の基本的なスタンスは?
 第一に、この制度は、弱い立場にある犯罪被害者等(犯罪被害者とその家族、被疑者・被告人の家族、少年の被疑者・被告人)に対する報道機関による人権侵害を救済する制度です。
 第二に、この制度は、表現の自由、報道の自由の保障等の観点から、報道機関の自主的取り組みの尊重を原則としています(報道機関の自主的な苦情処理手続きを尊重)。
 第三に、この制度は、事後的救済(既に起こった人権侵害を対象)を目的とする制度なので、およそ事前規則にわたることはあり得ません。

Q5  特別救済の対象は何?
対象は、犯罪被害者等(「Q&A3」参照)に対する(1)報道によるプライバシーの侵害(2)一定の過剰な取材―に限定されています。
 その具体例を挙げると、(1)性犯罪の被害者の氏名、住所、生活歴などをみだりに暴露する記事・写真の掲載(2)犯罪被害者の取材拒否を無視し、その自宅を取り囲み、外出時につきまとうなどして生活を妨害すること―などです。
 誤報による名誉棄損等、報道内容の真偽や取材内容が問題になるものは、表現の自由・報道の自由の保障の観点から対象にしていません。

(党機関紙「自由民主」 2002/5/28号掲載)

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