【モスクワ大木俊治】ロシア大統領府は13日、今後の国家戦略の指針となる「2020年までのロシア国家安全保障戦略」を公表した。長期的には世界的な核兵器廃絶への道も視野に入れることを初めて明記した。ただ、当面は戦略核戦力を維持しながら軍の近代化に取り組む姿勢を打ち出した。また間接的な表現ながら米国主導のミサイル防衛(MD)システムを「軍事的脅威」と指摘した。
「戦略」は00年策定の「国家安全保障の概念」の改定版。12日にメドベージェフ大統領が署名した。米国や北大西洋条約機構(NATO)を潜在的脅威ととらえ、これに対抗するためプーチン前大統領(現首相)の下で進められた大国化路線を引き続き進める方針を示している。
今後の国防政策については軍の近代化による国防力の強化を掲げ、中期的には戦略核兵器の能力を維持し、米国との核戦力の均衡に努める方針を堅持している。一方、長期的には世界の「戦略的安定の保障」がロシアの発展にとって好条件だとしたうえで、この「戦略的安定の保障」には「核兵器のない世界へ向けた段階的な前進」も含まれると明記した。
現在の国際情勢については「新興経済成長センターの強化で質的に新しい地政的状況が形成されつつある」「NATOなど既存の地域機構の破綻(はたん)が国際安全保障の脅威となっている」などと分析。長期的には中東、北極地域、カスピ海周辺、中央アジアなどを舞台にした資源エネルギーの争奪戦で、軍事力が行使される可能性も「排除できない」と予測している。
対米関係では、核軍縮交渉を当面の優先課題にしつつ「対等で包括的な戦略パートナー関係の構築を目指す」と明記。一方で、名指しは避けながら「先端兵器や非核戦略兵器の開発、一方的な世界規模のミサイル防衛システムの配備、宇宙の軍事化などによる軍事力の圧倒的優位を目指す諸外国の政策は軍事的に安全保障の脅威だ」と警告している。
NATOについては関係発展の用意を表明しながらも「軍事施設のロシア国境への接近や、国際法の規範に合致しない世界的な機能を補足しようとする試みは許容できない」とクギを刺した。
毎日新聞 2009年5月14日 東京朝刊