ディズニーランド本騒動と“巨匠病”

村崎 それから笑っちまったのが、『最後のパレード ディズニーランドで本当にあった心温まる話』ってベストセラー本が、各方面からの盗用がバレて回収騒ぎになっちまったってニュース(★17)

唐沢 似たようなことではオレも騒がれたことがあるけど、2ちゃんねるからの引用ってのは笑ったな。著作権意識のないところからパクって、それで著作権侵害になるのか? って感じだったな。

村崎 パクって作った本なら、本の表紙に正直に「本書は正真正銘の120%パクリ本です」「ほかのキャンペーンの入賞作品やネットの書き込みから、まんまネタを集めまくったパクリだけで出来ているので、オマイラはそれを承知の上、お買い求め下さい」とか但し書きしとけばよかったんだな(笑)。

唐沢 素人投稿を集めた本なんか、今は珍しくないし、アイデアとしてはまあ、よくあるもんだと思うのよ。でも、そのあとがよくなかったよね。この著者がブログで謝罪の言葉もないままにパニック状態になっちゃって。

村崎 ああ、アレ、すごかったね〜。「読売新聞と日本テレビを提訴する」とか「読売新聞の愚民どもに告ぐ」とかトチ狂ったことばっか書いていて、挙句の果てに「読売新聞社の前で焼身自殺したい」ってえんだから大笑いだよ。自殺するくらいならその前に謝れよ(笑)。もともと、本が出たときにすでにディズニーランドに内容証明を送られていたのに無視していたっていうし。まあ、普通に確信犯なヒトなんだろうね。

唐沢 あんなに版権管理のうるさいところ、まともな著者や出版社なら最初から手を出そうとしないよね。ディズニーネタで稼ごうとしたこと自体がそもそもの間違い。

村崎 この著者は十年以上、ディズニーに勤めていたんだろ? 何やったらまずいか、わかりそうなもんじゃねえか?

唐沢 ミッキーマウスの中身とか、完全極秘事項になっているものに関しては、辞めてからも十年は公表してはいけないって、一筆入れられそうなもんだけどね。

村崎 たぶんナチュラルに「ディズニーランドにはこんな心温まる話がたくさんあるので、みなさんに紹介してあげたいんです」って思っただけで別に悪気はなかったんだろうけどさ、ひとたび槍玉に挙げられたら途端に「愚民ども」だもの。こういうところでその人間の本性が出るよな。盗用行為よりも、その対応の極悪発言の数々の方がダメージになってるって、どうして気づけないんだろうね?

唐沢 なんとなく著者としての驕りっていうかね、一冊ベストセラーを出したことで自分なりの地位を築き上げたと思った矢先にこれだから逆上しちゃったんだろうね。別に本を書いたからって偉いわけでもなんでもない、物書きなんてのは虚業に過ぎないんで、汗だくになってミッキーの中に入って働いている人たちのほうがよっぽど偉いよ。

村崎 さすがに出版元は謝罪して回収ということになったわけだけど、オレ、もともと「ディズニーランドで本当にあった心温まる話」なんて聞くと虫唾が走るくらいのディズニー嫌いな人間なんで、ベストセラーになったと聞いていもケッと思っていたんだけどさ、こうして盗作騒ぎが起こって著者が逆ギレして「愚民ども」とか言ったりして、人間の浅はかさと愚かさが全面暴露された時点で、初めてオレにとっては「本当にあった心温まる話」になったというわけ(笑)。「悪いヒトが(パクって)語るイイ話」ってことで、なんとなくタイトル的に『きれいなお城のきたない話』と被る感じだね。

唐沢 オレも自分が書評で取り上げた著者にキレられたりすることってよくあるけどね、変な話、たとえば椅子職人が自分の作った椅子を買った人から「座っていると尻が痛くなる」って言われたら、普通、「ああ、すみません」って修理するよね。それって別に恥じることじゃないし、何で出版関係にはこういう当たり前のことができない人が多いんだろうと。

村崎 あ、でも唐沢さん、それってこないだ(唐沢)なをきさんが『まんが極道』の第三巻で描いていた“巨匠病”ってのを見りゃよくわかるよ(笑)。

唐沢 同人で人気のあった新人漫画家が漫画誌デビューするってんで、編集者からいろいろ細かい注意とかアドバイスをされたら「そんなにとやかく言われるようなら、僕はもう描きません」って原稿破るってやつね。実はこの“巨匠病”って、漫画に限らず、小説でもノンフィクションでも、出版業界のどこの世界にも浸透しているくらい猖獗を極めているらしい(笑)。

村崎 昔は『ガロ』周辺にそういうのが多かったんだけど、最近は同人誌関係でこういうのが流行っているんだってな。

唐沢 同人誌やっているだけなら、締め切りはコミケに間に合わせりゃいい、コミケで売ればみんな褒めちぎって買ってくれる、こりゃ商業誌デビュー前に“巨匠”になっちまうのもわからんでもないよね。そこでプロの編集者に現実の厳しさを教えられたら拒絶反応してしまうのも、これまた当たり前の話で。

村崎 しかし、前も言ったけど、あんな漫画描いていて大丈夫なの? なをきさん(笑)。これはほぼ全てフィクションのフリをしたまったくの実話だろ? 自分についているアシスタントの女の子を食いまくっている人気漫画家の話とかもあったけど、なをきさんの今のアシスタントって全員女性じゃなかったっけ(笑)。

唐沢 だから作中で「ウチはこんなことやってないからね!」って力説しているわけで(笑)。こないだ、何で女の子のアシスタントしかとらないのってなをきに訊いたら「いや、男のアシスタントだと、それこそ“巨匠病”みたいなやつばっかりなんで、使い物にならないんだよ」って言ってた。

村崎 あの漫画でも、地道に漫画修行しているのは女の子の漫画家で、男はひでえもんだよな、エロ同人誌で大儲けして、「マンションも車も何もかも、ぜーんぶオタクくんたちのセンズリ代で買いました!」とか大喜びしているやつとか(笑)。でも、あれ通して読んでいると、逆説的にハンパじゃない漫画愛を感じたりするんだわ。シャレにならんくらいのクソみたいな連中をリアルにぎょーさん描いて、こっちもそれ読んで無責任に笑っちゃうんだけど、その背後からなおきさんの「漫画をナメるな!」って怒りの声がちゃんと聞こえてくるから。だから、系譜としては『漫画家残酷物語』の永島慎二や、吾妻ひでおの『地を這う魚』に繋がるというか。

唐沢 なをきの前作も『漫画家超残酷物語』だったからね。あれ、前も言ったけど、 某漫画賞の候補に呉智英さんが推薦したら、某少女漫画の大家の先生が「こんなものに賞をあげたら、永島先生がどんな顔されると思っているんですか!」って激怒したんだから(笑)。それに「笑ってくれるんじゃないですか」とか返した呉さんもすごいけど(笑)。

村崎 いや、実際これはある種のオマージュだと思うよ。優れた漫画家なら誰だって、自分の描きたいものと現実とのジレンマに誠実に悩んでいるはずだもの。

唐沢 なをきもウチの女房(ソルボンヌK子)も、それからオレも漫画業界の裏話みたいなものはよく書くんだけどさ、それに対して「業界のこんな醜いことを書いたら、新人が幻滅して入ってこなくなるじゃないか」って言ってくる人もいる。でもさ、どんなに裏幕を書いたところで、“業界の魔力”ってのは絶大なものだから、これからも新人はどんどん入ってくると思うんだ。なぜかっていうと、新人の漫画家志望者はみんなどんなに業界の悪い側面を知っても、「私だけはこんなに穢れない」と思いながら入ってくるものだから(笑)。入れば、結局穢れていっちゃうんだけどね。

村崎 それって『鴨川ホルモー』の最後の「大丈夫、きっと楽しいことも多いはず」って台詞を思い出させるよな(笑)。

唐沢 芸能界だって同じようなもんで、みんな枕営業なんか絶対やらないと思いながらも、結局染まっていっちゃうんでね。染まらないようにしていると、ストレスたまって結局、草なぎクンみたいな事件を起こしちゃうわけで。

村崎 とにかく『まんが極道』読んでると、他人事じゃなく、わが身を振り返って反省しなくちゃいかん点がどんどん見えてくるし、われわれのこの連載もまだまだヌルいな〜って痛感したよ。

唐沢 だんだんマトモなことを言っている率が増えてきて、それこそ『最後のパレード』の作者みたいな慢心さが垣間見られるようになっちゃったらオシマイだからね、この連載(笑)。本来の鬼畜路線をきっちりキープしていかないと。

村崎 いや、実際オレが一番タチ悪いと思うよ、この連載。自分では何一つ派手な犯罪はやらないで、他人様が苦労してやった犯罪や不祥事をバカだの芸が無いだの、これだけ無責任にケチョンケチョンにけなしてるんだから(笑)。

唐沢 まったく、犯罪は芸術と紙一重のところがあるからね。自分で何も成し得ない評論家なのよ、結局のところわれわれは。

★17 ディズニーランド本「最後のパレード」盗作容疑

 東京ディズニーランドでの「心温まる話」を集め、ベストセラーになっている本に収録された文章が、他の作品と酷似していることが20日、分かった。盗作疑惑が持ち上がったのは同ランドを経営するオリエンタルランドの元社員が書いた「最後のパレード」(中村克著、サンクチュアリ・パブリッシング)で、23万部以上売れている(オリコン調べ)。
 問題になっているのは、同書に収録の「大きな白い温かい手」と題するエピソード。ドナルドダックが障害を持つ夫を励ましてくれたという内容で、2004年、社団法人「小さな親切」運動本部主催のはがきキャンペーンに大分県在住の女性が応募した作品「あひるさん、ありがとう」に酷似している。女性の文章は日本郵政公社総裁賞を受賞、河出書房新社発行の「涙が出るほどいい話 第10集」にも収録されている。
 同法人では「女性からは対応を一任されている。顧問弁護士と相談して、今後の対応を練りたい」という。一方、「最後のパレード」の発行元は「数多くの書き込みがインターネット上にあり、すでに誰もが知っている話だという著者の判断があり、掲載させていただいた。『盗用』ではない」というが、「大分の女性、社団法人に対して誠意を持って対応させていただきたい」としている。
(朝日新聞4月20日の記事より引用)

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