シャープは8日、3800億円を投じて堺市に建設中のテレビ用大型液晶パネル新工場を10月に稼働すると発表した。これまで10年3月をメドにしてきたが、09年1~3月期で在庫圧縮がおおむね終了。「今後は中国など新興国向けを中心に液晶テレビ需要が回復する」と見込み、新工場の早期稼働による生産拡大に転換することにした。
「この1カ月で液晶市場はびっくりするくらい動き出し、パネルの注文が急激に入り出した」。8日東京都内で経営戦略を発表したシャープの片山幹雄社長は、明るい兆しを強調した。
世界的な金融・経済危機の深刻化を受けて、世界の液晶テレビ需要は昨秋以降、急激に落ち込んだ。シャープは在庫圧縮を目指し、パネルの生産調整を急いできた。それが3月までにほぼ完了したほか、アジアを中心に需要の好転が見られるという。液晶テレビ向けの大型パネルを生産する亀山第2工場(三重県亀山市)では「稼働率を半減させていた従来の状況がフル稼働に変わった」(片山社長)。このため、「最新鋭の堺新工場を早期に稼働しコスト競争力も上げる」と強気の戦略に転換した。
ただ、不安もある。米欧など先進国の景気後退が一段と深刻化すれば、中国など新興国経済の冷え込みも不可避だ。思惑通りに液晶テレビの海外需要が急回復するかどうかは不透明である。
液晶パネル事業で提携するソニーが国内外の需要鈍化や採算悪化を理由に液晶テレビ事業の見直しを検討していることも不安材料だ。シャープの大型パネルの年間生産能力は堺新工場の稼働で最大約2000万枚(42型換算)に拡大するが、ソニーの動向次第では再び過剰供給・在庫に襲われる懸念がある。米調査会社、ディスプレイサーチ社の鳥居寿一アナリストも「パネル供給先をどれだけ確保できるかが、シャープの強気戦略成功のカギ」と指摘する。
アジアを中心に液晶テレビの需要が相当程度回復するとしても、ウォン安を武器に激しい価格攻勢をかける韓国のサムスン電子などとの競争で収益が期待通りに上げられるかどうかも分からない。片山社長は09年3月期決算の連結最終(当期)赤字が1300億円に拡大するとの業績予想を発表し、10年3月期決算に向けては液晶パネルの売り上げ増などで黒字転換を目指す姿勢を示したが、実現は容易ではなさそうだ。【新宮達、高橋昌紀】
毎日新聞 2009年4月8日 21時13分(最終更新 4月8日 22時27分)