2009年5月13日15時15分
[東京 13日 ロイター] 8大銀行グループの2010年3月期業績は、保有株式の減損処理が発生しないことを前提に当期黒字を確保しそうだ。
前期は株価の下落が財務を直撃し、8グループ中6グループが赤字決算になる惨たんたる状況に陥った。今期の課題は、景気悪化に伴う融資先企業の与信コスト上昇をどのように抑えるのかに掛かってくる。加えてクローズアップされるのは財務の健全性。各グループは昨年から年初に掛けて資本増強を実施したが、欧米で議論が進行している自己資本比率規制の強化を見据えて、再度の増資に踏み切る可能性もある。
<与信コストを09年3月期に前倒し計上>
大手銀行グループの前期の赤字の主因は、保有株式の減損コストと与信関係費用の急増だ。各行が基準とする09年3月の日経平均株価は末日で8117円、月中平均は7765億円と前年同期比で大幅な下落となり、保有株式の減損処理を実施した。三菱UFJやみずほFGの株式関係損失は4000億円を超える水準となった。巨額損失を計上する一方で、各行は保有株式の簿価下げをしたことになり「今後の保有株式リスクは限定的」(大手行役員)とし、10年3月期には株式関連損失をほとんど見込んでいない。ただ、金融危機の長期化でさらに株価が下落し、日経平均株価が6000円台にまで突入する事態になると、保有株式リスクが再浮上することになりそうだ。
一方の与信関係費用の急増には、各行とも頭を悩ませる。09年3月期には予防的措置の名目で与信関係費用の多額計上を行った。みずほは予想比2300億円増加の5600億円。三井住友は予想比1800億円増加の5500億円に膨らむ。「10年3月期に貸出先企業の業況悪化を見込んだ」(三井住友広報)としており、今後の負担を前倒し計上した格好だ。
しかし、長引く景気低迷で想定よりも与信関係費用が上振れする懸念は消えない。「今期の与信関係費用が限定的に済むかどうかは、まだ不透明」と野村証券金融経済研究所の守山啓輔アナリストは分析する。大手行の企画担当役員は「与信関係費用を膨らませないために、融資先企業に対する再生力が問われる」とする。しかし、本業そのものが低迷する企業の再生をどのように果たすのか。各銀行の手腕が問われそうだ。
<高まる「自己資本の質」議論、付きまとう希薄化リスク>
期間収益の課題とは別に、10年3月期に付きまとうのは自己資本増強による希薄化リスクだ。各行は08年末から09年初頭にかけて大規模な増資ラッシュに突入。三菱UFJは公募増資と機関投資家向けの優先株の発行により、中核的自己資本(Tier)を約7900億円調達。そのほか三井住友が7000億円、みずほが3000億円の資本増強を実施した。直接金融市場の機能低下で、企業の資金需要は銀行貸出に大きくシフト。増大する貸出需要に対応するための資本増強だった。
しかし、年明け以降、今度は世界の規制当局の中で「自己資本の質」議論が急浮上してきた。
銀行のTier1には資本金や剰余金のほかに、優先出資証券や繰り延べ税金資産も組み入れることができる。
ところが、優先出資証券は負債性が高いため「損失バッファーとしての質が低い」(金融庁幹部)との見方が強まってきた。優先出資証券などを除いたコアTier1比率は、欧米銀の6―10%程度に対して、邦銀は5%程度かそれ以下に留まっている。UBS証券の推計によると、大手銀の中で最もコアTier1が高い三菱UFJや中央三井トラスト、住友信託でも5%台。最も低いみずほは1%台にしか過ぎない。
バーゼル銀行監督委員会は公式コメントで「銀行規制の強化は景気回復が実現してから」と位置づけたが、「世界的な規制強化の流れは秋までに方向が決まってしまうかもしれない」とある銀行の企画部幹部は警戒する。
このため現在は規制上の自己資本比率をクリアしていても、将来の規制強化に備えて早めに手を打つ必要性も出てくる。実際、三井住友が発表した最大8000億円の普通株による資本増強計画は、そうした流れを踏まえての決断となった。
大手銀の決算発表は、13日の新生銀行で幕を開け、15日にみずほFG、住友信託銀、中央三井トラストHD、りそなHD、三井住友FG、19日の三菱UFJFGと続く。あおぞら銀は発表日が確定していない。
(ロイター日本語ニュース 布施太郎記者;編集 田巻 一彦)