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ハウジングプア:/上 「追い出し屋」に閉め出され

 失業や病気で収入が途絶えたとたんに、安心して暮らせる場所を失う。そんな状況を呼ぶ言葉が生まれた。「ハウジングプア」。住まいをなくした人たちを追うと、さまざまな制度の不備が浮かぶ。【小林多美子】

 ◇家賃滞納で鍵交換、荷物撤去…保証会社の不法野放し

 「あさってまでに家賃を払わなければ、18日に鍵を閉めます」。昨年11月15日、大阪市の男性(49)は契約していた家賃保証会社から電話で告げられた。10月末に大家に払う予定だった11月分の家賃・光熱費計6万円を滞納していた。

 予告された18日夜。帰宅すると玄関のドアに新しい鍵がつけられていた。「滞納した自分が悪い。でもこんなに早く閉め出されるなんて……」。1カ月ほどして戻ってみた。鍵が開いていたので中に入ると、置いていた家財道具や服、トイレットペーパーまで、すべてが消えていた。

 短期間の家賃滞納を理由に入居者を強制的に退去させる「追い出し屋」。当時の男性は、その言葉すら知らなかった。

     ◇

 男性は約20年前に統合失調症を発症し、家族と疎遠になった。障害で働けず、生活保護を受給。2年半前に携帯電話サイトで「敷金・礼金ゼロ」に引かれてこのアパートを見つけた。連帯保証人になってくれる親族はなく、不動産業者の求めで保証会社と契約した。

 月12万円の保護費から家賃や生活費を引くと、ぎりぎりの生活。1年がたつころから家賃の支払いが遅れ始めた。遅れた分も1カ月以内には払ったが、保証会社から違約金5000円を請求された。それを払うたびに翌月の支払いが遅れる繰り返しに陥ったという。

 部屋に戻れなくなった男性はカプセルホテルに身を寄せた。隣の人が寝返りを打つ音まで響く。精神的に不安定になり、薬の服用回数が増えていく。閉所恐怖症なので扉を開けて寝ていたら、財布を盗まれてしまった。

 住まいを失って気づいたことがある。以前は1人で部屋にいると気がめいるので、街を歩いたり公園で過ごすことが多かった。でもカプセルホテルでの暮らしは、どこにいても落ち着かない。「安心して外に出られたのも、帰る家があったからだったんだ」

 福祉事務所は「年内に新居を決めないと、生活保護を止める」という。そうなればカプセルホテルにもいられなくなる。大阪の弁護士や司法書士らで作る「賃貸住宅追い出し屋被害対策会議」を知って駆け込み、保証会社の行為が違法だと教えられた。

 「法律の知識もなく、業者の言われるがままになってしまった」。弁護士の協力で生活保護も続けられ、月4万2000円のアパートに入居できた。支出が減り、もう家賃を滞納することもない。今年1月、保証会社らを相手に、精神的慰謝料と撤去された荷物の賠償計140万円を求める民事裁判を大阪簡裁に起こした。保証会社側は取材に対し「係争中で、コメントは控える」としている。

新しいアパートで暮らす男性。住まいとともに心の安定も戻ってきた
新しいアパートで暮らす男性。住まいとともに心の安定も戻ってきた

     ◇

 追い出し屋による被害は昨年秋に表面化した。国土交通省によると、全国の消費生活センターなどへの相談は06年度の29件から07年度には68件に急増している。鍵の無断交換や荷物の撤去を強行したり、深夜しつこく訪問する。消費者契約法の上限利率(延滞家賃に対し年14・6%)を超える違約金を請求する業者もある。

 本来、入居者には借地借家法で居住権が認められており、判例上、大家が家賃滞納を理由に退去を求めるには「信頼関係が破壊されるほどの滞納」が必要で、その期間は半年程度とされている。国交省も部屋への無断立ち入りや鍵の交換は「住居侵入罪や民法上の不法行為にあたる可能性がある」としている。

 追い出し行為を行う業者の多くは家賃保証会社や不動産管理会社だ。特に保証会社は家族関係が希薄になったこともあり、ここ数年で増加。民間賃貸契約で連帯保証人を立てられずに保証会社を利用した契約は07年度に25%を占める(日本賃貸住宅管理協会調べ)。ニーズの高まる業界だが、法的な規制はなく貸金業への規制強化で追い込まれたヤミ金融などが流れ込んでいるともみられる。

 さらに、公的な保証制度が機能していないことも温床となっている。財団法人「高齢者住宅財団」は01年度から高齢者や障害者への保証事業を実施しているが、07年度までの利用者数は高齢者が560人、障害者は3人どまり。大阪市の男性は「制度があることも知らなかった」という。

 今年2月に発足した「全国追い出し屋対策会議」は国に対し、保証会社への登録制度の導入と規制強化を要望。メンバーの徳武聡子司法書士は「急な出費で家賃を滞納せざるをえないほどの低所得者が増えているのに、国の支援策はあまりに不十分」と指摘する。

 ◇ハウジングプア

 働いても貧困から抜け出せない「ワーキングプア」にちなみ、貧しさゆえに安定した住まいを持てない人々の現状を知ってもらおうと、生活困窮者らを支援するNPO「自立生活サポートセンター・もやい」代表の稲葉剛さん(39)が考えた。追い出し屋が絡む家に住む人や寮付き派遣の労働者など、家はあるが不安定▽ネットカフェやカプセルホテルなど、屋根はあるが家ではない▽路上生活--などの状態を指す。

 今年3月にはNPOなどが「住まいの貧困に取り組むネットワーク」を結成、あらゆる人への住居の保障を求めている。世話人でもある稲葉さんは「家は人が働き、暮らす基盤。収入が多くない人も家にかかる支出が少なければ、生活困窮に陥らずに済む」と、公的住宅の拡充などを訴える。

毎日新聞 2009年5月11日 東京朝刊

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