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日系人失業者への帰国旅費支給に賛否の声2009年04月12日
困窮している日系人失業者に帰国旅費を支給する国の支援事業に対し、県西部の外国人集住地域で賛否両論がわき起こっている。「日系人」という在留資格の再入国を認めないため、「排除につながりかねない」との懸念がある一方、人道的な支援だとの見方もある。就労制限のない在留資格が日系2、3世と家族に認められた入管法改正から19年。外国人との「共生」に取り組んできた現場はどう受け止めるか。(馬場由美子) ◆「再入国不可」に憤り 「再入国できないなんて。自分たちはもういらないということか」。日系ブラジル人2世のタカト・ロベルトさん(48)は声を荒らげた。 06年に来日し、掛川市内の自動車部品工場で働いていたが、昨年11月下旬に職を失った。御前崎市池新田に「安く暮らせる寮」があると聞き、移り住んだ。掛川市内で人材派遣会社を経営していた小林禎三元会長が、原子力発電所の作業員宿舎を買い取り、外国人派遣社員向けの宿舎に改築した施設だ。 スズキ相良工場(牧之原市)関連の労働需要を見込んでいたが、不況で頓挫。失職外国人の苦境を目の当たりにし、社員以外にも格安で部屋を提供した。現在は24人のブラジル人が暮らす。皆、妻や子供を一時帰国させ、単身日本に残り職探しを続ける。 小林元会長は入管法が改正された90年以降、数百人の南米系日系人を雇い、近隣の工場に派遣してきた。東海地方の製造業は彼らが支えてきたとの思いが強い。 「今、外国人も派遣会社も必死。その矢先に日系人排除ともとれる国の策が出て、彼らを深く傷つけた」と話す。 そして付け加える。「景気が上向けば、再び労働力が必要になる。でも外国人を大事にしない国には、だれも来てくれないのではないか」 ◆国の事業「試金石に」 磐田市自治会連合会の杉田友司会長は、この事業が「隣人」にどう影響するのか、はかりかねている。 外国人住民が約2割を占める同市東新町の南御厨地区で約7年間、「共生」に取り組んできた。ここで生まれ育った外国人の子供たちが日本語や日本の文化を身に着け、日本人社会にとけ込んでいく様子をずっと見てきた。将来、地域のマンパワーになってくれると期待している。 子供が親とともに国の事業で帰国すれば、将来、就労制限のない「日系人」の資格での再入国はできなくなる。日本を深く理解している有能な人材であっても、日本で働きたいという夢は閉ざされる。「大きな損失だ」と思う。 日本で育った子供たちの生活基盤は、ブラジルにはない。ポルトガル語ができない子もいる。親が帰国を、子供たちが日本で生きることを望めば、家族は引き裂かれる。 一方で杉田会長は「今回の支援事業は、日系人にとっても試金石になる」とも話す。日本語を覚えようとせず、外国人コミュニティーの中だけで生きる大人は依然多い。派遣会社から解雇されると、語学力が壁になり、再就職できないままだ。「帰国したくても旅費がない出稼ぎ感覚の人にとっては、国の支援は人道的な策かもしれない」 ◆「自分で決めるべき」 支援事業を主管する厚生労働省の外国人雇用対策課は「失業して困窮し、帰りたくても旅費がない人に国費で帰国を支援するもので、日系人を排除する意図はない」と強調する。 「再入国不可」とした理由については、「景気回復のめどがたたず、外国人労働者の受け入れ側である事業主の雇用環境がいつ整うのかわからない」と説明。将来的に「再入国不可」を緩和する可能性もにじませる。今後の経済動向が見通せないため、入国の制限期間を設けられなかったというのが本音のようだ。 国の帰国支援は、外国人集住地域の自治体には「朗報」とも映る。生活保護を受給する外国人世帯が激増し、財源の確保が悩みの種だからだ。ある自治体の幹部は「帰国してもらった方が日本としては安上がりだ」と打ち明けた。 約2万人、日本一多くのブラジル人が住む浜松市。生活保護を受ける外国人世帯は今年2月末で116世帯あり、前年同期の70世帯を大きく上回った。1世帯あたりの受給額は月額十数万円。今後、失業して雇用保険の受給期間が終われば、生活保護の申請者はさらに増えると見込まれる。 日本に残るか、帰国するか。決断に迷う日系人たちは、8日に浜松市内であったハローワークの説明会に押しかけた。「差別だ」と国を非難する声と、「これで帰れる」との安堵(あんど)の声が交錯する中、日系ブラジル人3世のラモス・ミチコさん(37)は静かに語った。 「ブラジル人は甘えすぎ。国の制度が嫌なら使わなければいい。自分の生き方は自分の責任で決めるべきです」 ◇キーワード:日系人離職者に対する帰国支援事業 日本で職が見つからず、帰国を決めた日系人に対し、国が一律30万円(扶養家族は20万円)を支給する制度。雇用保険受給の日数が30日以上残っている人には10万円、60日以上は20万円を上積みする。今月から申請を受け付けている。 自分で航空券を予約し、外国人登録証のコピーなどの必要書類を各地のハローワークに提出。 支給決定後、国が航空券の代金を旅行会社に支払い、残額は帰国後に本人名義の現地の口座にドル建てで振り込まれる。 この事業での帰国者は家族も含めて全員、入国管理局に記録され、今後「日系人」の在留資格での再入国は認められない。 ◆問題感じる一律「不可」 (静岡文化芸術大学国際文化学科の池上重弘教授の話)永住権を取得した日系人も含めて一律「再入国不可」としたことには問題を感じる。再入国できない年限を定めるなど、客観的な基準があった方がいい。 将来的には新たな就労ビザの創設もひとつの選択肢だ。 言葉や生活習慣を学ぶ定住センターのような施設を設け、トレーニングを受けて日本で暮らす覚悟を決めた人だけに入国を許可する。日系人に限らず、すべての外国人に門戸を開くことも可能になる。
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