日本の児童ポルノ漫画を翻訳するフィリピン人女性は胸中を悲しげに話した。「生活のためには仕方がない」。マニラ首都圏に住む20代の女性は周囲を気にしながら、翻訳中のポルノ漫画を見せてくれた。未成年と分かる制服を着た少女や、小学校の校庭を舞台にした絵が描き出されていた。
女性は児童ポルノなどをネット上で販売する会社で翻訳のアルバイトとして働いている。「仕事を失いたくない」と匿名を条件に取材に応じた。
「日本の漫画に興味がある人」という求人をネット上で見つけ、応募した。給料は、同国の公務員の平均月収とほぼ同じ月額約1万5000ペソ(約3万円)。小学生の娘と2人暮らし。この収入だけが生活の支えだ。
日本の漫画は定期的に、マニラ首都圏にあるこの会社にメールで届いているという。女性は週2回、出社して漫画の画像が入ったUSBメモリーを受け取り、自宅のパソコンで日本語のせりふ部分を英語に翻訳する。日本語はほとんど話せないが、ネットの辞書機能を使っている。
同社の事務所では10人ほどがパソコンの画面でフィリピンや世界各国のポルノビデオやアニメの編集や翻訳をしている。編集した映像や、女性が翻訳した漫画は、ネット上で世界中に販売されているという。欧米など世界中に顧客がいる。事務所は24時間稼働。「人件費が安いし、規制がないから、この国にこんな会社があるのだと思う」と女性は説明する。
「初めてこのような漫画を見たときには、あまりのひどさに頭が混乱した」という。自宅で作業中のパソコンの画面を娘が見たこともある。それ以降、二度とパソコンには近寄らないように言いつけている。今は何も感覚がなく、淡々と訳すだけだという。
「子供を扱ったものは規制すべきだと思う。こんな仕事をしていて罪の意識はあるけど……」。別れ際に彼女は力なく話した。
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■ことば
「児童失踪・児童虐待国際センター」によると、世界で児童ポルノの画像の単純所持を禁じているのは56カ国で、米やカナダ、スウェーデンは漫画も処罰対象にしている。日本は04年の法改正で、新たに販売目的以外で児童ポルノを提供した者も処罰の対象に加えたが、単純所持は禁じていない。
毎日新聞 2009年5月11日 東京朝刊