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新教育の森:不規則な就寝で学校休みがちに 京都府八幡市教委、不登校防止に睡眠指導

 京都府八幡市教委が、児童生徒の睡眠パターンと不登校の関係を調べたところ、睡眠不足でパターンが不規則な生徒に理由不明の欠席が目立った。「睡眠の改善が不登校防止につながる」と生活指導に役立てている同市教委の取り組みとは--。【玉置勝巳】

 ◇小中学生の睡眠を調査、欠席との関係が明確に

 この取り組みは、「テレビの深夜放送をはじめ、受験勉強やインターネットなど睡眠不足になりやすい社会になっていることと、不登校が関係あるのではないか?」という同市教委の山下信之・指導主事(45)の思いが出発点になっている。

 山下指導主事は、子どもの睡眠問題に詳しい三池輝久・熊本大名誉教授(66)=神経小児科=に相談、「生活リズム向上プログラム」というソフトを共同開発した。

 市教委は、市立4中学校・9小学校全校で睡眠状況の調査を実施した。調査方法は、2週間にわたって児童生徒が1日を示す帯グラフに毎日の睡眠時間を自己記入した。

 この調査をもとに、各児童生徒の睡眠のうち次のような五つの「危険」パターンにあてはまるものをピックアップし、生活指導の対象にしている。

 (1)不規則型=午前0時を過ぎて就寝し、かつ就寝時間、睡眠時間も不規則。

 (2)帰宅後睡眠型=学校から帰宅後すぐに寝る。

 (3)中途覚せい型=睡眠途中に起きる。

 (4)ショートスリープ型=睡眠時間が5時間程度しかない。

 (5)ロングスリープ型=睡眠時間が10時間を超える。

 ◇午前0時前に寝るよう促し、生活リズムの向上図る

 ある中学校(生徒数約400人)では、昨年5月と11月に全生徒を対象に調査したところ、2度にわたって「危険」の睡眠パターンだった生徒は66人いて、これらの生徒の昨年4~12月の理由不明欠席日数は平均4・8日だった。これは健全睡眠の生徒の約2・7倍。さらに問題睡眠の中でも、不規則型(20人)の生徒の欠席日数は同10・1日と群を抜いていた。

 山下指導主事は「教育現場では、不登校の原因について日々頭を悩ませているが、睡眠と欠席の関係が顕著に表れた」と実際の調査結果にあらためて驚いている。また、こうした調査をもとにした生活指導について、「各自の睡眠調査から適正な睡眠時間を割り出し、午前0時より前に寝て睡眠リズムを固定化させ、生活リズムを向上させることが大切だ。場合によっては医学的な治療も必要になってくる。指導の成果が今年度中に不登校の減少として表れることを期待したい」と話す。

 三池名誉教授も「不規則な就寝は、寝る時間を削って勉強を頑張り朝は定時に起床するまじめな子がなりやすい。睡眠不足により自律神経や生体リズムに変調をきたし、不登校になる」と分析する。

 こうした同市教委の取り組みについて、文部科学省児童生徒課も「他に聞いたことがない」と話している。

 ◇減らない不登校児童・生徒 小学生2万3900人、中学生10万5300人

 文科省は毎年、不登校の児童生徒の調査を実施している。不登校の定義は「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないかしたくともできない状況にあり、病気や経済的理由を除いて年30日以上欠席した児童生徒」で、07年度の全国の不登校者数は小学生2万3927人(全児童数の0・34%)、中学生10万5328人(全生徒数の2・91%)。最近10年はほぼ横ばい状態が続いているが、91年度と比べるとそれぞれ約2倍に増えている。

 その理由について同省は(1)人間関係を築くことができない子が増えた(2)早く寝たり、登校時間に起きるなど基本的な生活習慣が身についていない(3)親の意識が変化し、嫌がる子どもを無理に登校させなくなった--などを挙げる。

 同省の07年度調査では、不登校となったきっかけとして、「本人にかかわる問題」を除けば「友人関係」「親子関係」という現場からの回答が多かった。小・中別では、小学校で「家庭の生活環境の急激な変化」、中学校で「学業の不振」などが目立った。

 ◇専任者が家庭を訪問 学校復帰に民間の力

 不登校に対する同省の取り組みとしては、全国の自治体が実施している「自立支援事業」や、NPO、フリースクールなどの民間と協力した「実践研究事業」などがある。

 「自立支援事業」は07年度から始まり、全都道府県で取り組まれている。

 中学校1校で不登校傾向のある生徒を遅刻数などから見つけ出して登校前に自立支援員らが家庭訪問(和歌山県印南町教委)▽小中学校の不登校生の家庭へ訪問指導員が訪ねたり、適応指導教室で大学生のメンタルフレンドとの会話の機会を作った(広島県三原市教委)▽小学校1校に自立支援スタッフを配置し、不登校生家庭への訪問指導や空き教室を利用した校内指導(大阪府門真市教委)--などの自立支援の取り組みが報告されている。

 一方、NPOなどの「実践研究事業」は05年度からで、昨年度は40団体が参加した。

 小・中学生の再登校を促すNPO法人「教育支援協会」(本部・東京都中央区)は、学習と体験を組み合わせたプログラムを行っている。児童相談所、区、医療機関、小中学校などが連携し、不登校生の学校復帰を目指す。また、静岡県三島市のNPO法人「リベラヒューマンサポート リベラスコーレ」は「コミュニティスクール」で、不登校になった中学生と高校生を対象に学校復帰を図る。中学生の場合、同スクールに通えば学校に出席したことになる。通信制高校に進学した場合は基本的な学習力などを身につける場にもなっている。

毎日新聞 2009年5月9日 東京朝刊

 

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