「奈良の政治でデビューしてからお世話になり、感謝しております」。今年2月23日、奈良市内のホテルであった自民党県議らの勉強会で、荒井正吾知事が頭を下げた。勉強会には、県議会最大会派「自民党」の県議17人のうち11人が参加する。荒井を支える中心的存在だ。
国土交通省で海上保安庁長官まで登り詰めた荒井。元運輸相の古賀誠・自民党選対委員長に誘われて01年に同党参院議員に転身し、07年5月に知事に就任した。
県内での政治基盤はないに等しい荒井にとって、後ろ盾の古賀の存在は大きい。07年夏、勉強会のメンバーらが古賀を支持する親ぼく会を結成した。「他県の国会議員の親ぼく会ができるのは異例」(他会派の県議)だが、荒井と自民党の蜜月関係を示すものと言える。
そんな荒井が独自色を出し始めたのは医療政策だ。荒井は勉強会で「県立病院の再生により力を入れていきたい」などと熱弁を振るった。06年8月、町立大淀病院で分娩(ぶんべん)中に意識不明となった妊婦が、19病院に搬送を断られて死亡。知事就任間もない07年8月には、橿原市の妊婦が大阪府高槻市の病院へ搬送中に救急車内で死産した。県内の救急搬送体制が全国的に注目を集めたことが荒井を駆り立てた。
荒井は、調査委員会を立ち上げ、1次救急輪番の整備に乗り出した。08年度から、看護師が受け入れ病院を探す妊婦搬送コーディネーターを新たに設置。08年5月には、大学教授や病院長ら約200人が救急医療や医師確保などについて話し合う県地域医療等対策協議会を創設した。自民党も、県議会厚生委員会(9人)に勉強会の議員4人を送り、支援態勢を固める。
ただ、全国的な医師・看護師不足などが影響し、妊婦搬送コーディネーターはわずか1年で廃止。ハイリスク妊婦の県外搬送率は25%から5ポイント下がったが、昨年5月に開設した総合周産期母子医療センターも看護師不足で31床のうち22床しか稼働できていない。
背景には、06年度に国が導入した看護配置基準がある。これまでの「患者10人に看護師1人」に加え、「7人に1人」の枠が創設された。手厚い看護で診療報酬が増額されるため、大阪や京都などの大学病院や民間総合病院で看護師の需要が高まり、県内の新卒看護師が都市部に流れた。
追い打ちをかけるように、生駒市が開院を目指す市立病院の病床配分を巡って県と県医師会が対立。地域医療等対策協議会の委員20人が辞任届を提出する事態になっている。
塩見俊次・県医師会長は「知事の意気込みは評価できるが、もう少し現場や実態を反映した施策を」と注文する。荒井のスピード感ある対応に結果が伴わないのが現状だ。「柿本県政より積極的だが、結果が出ていない。今年は正念場だ」。ある県幹部はこう漏らす。(敬称略)
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荒井正吾知事が07年5月の就任から2年を迎えた。政治手腕や政策を振り返り、課題を探った。
毎日新聞 2009年5月8日 地方版