県立地域診療センターの病床休止(無床化)問題で、地域住民を対象にした達増拓也知事の説明会が7日、紫波町で開かれた。4月に行った一関市花泉町、花巻市大迫町に続き3回目で、これで半数を終えた。「入院先を探すのに苦労した」などの訴えが住民側から上がり、迅速な搬送・治療対応など、新たな地域医療体制下での問題点が浮き彫りになってきた。【山口圭一】
◆救急体制
4月の土曜日、花巻市大迫町の80歳代男性の容体が急変した。旧大迫町内唯一の医療機関である診療センターは休日・夜間、医師は不在だ。男性は直線で約18キロ離れた市内の病院に搬送されたが、間に合わず死亡した。
社会福祉法人大迫桐寿会の佐藤忠正理事は、この事例を挙げ救急時の不安を訴えた。知事は「命にかかわる症状は、これまでも基幹病院に運んでいた」と説明。救急車の増備を求める意見にも「花巻市のこと」と答えるにとどまった。
説明会後、佐藤理事は「地元で診てもらえれば助かったかも、と遺族は悩み続ける。知事は、こうした住民感情にも目を向けてほしい」と語った。
◆終末期医療
地元で終末期医療を受けたいという声も集まった。知事は「地域医療は医療だけでなく、福祉などケア全体ができて安心できる」と語るが、「2次医療圏ごとに話し合って仕組みを作ってほしい」と具体像は見えない。
県は、今月から秋にかけて地域ごとに3回程度、住民や医療団体、県立病院の医師らが話し合う懇談会を設けるが、「住民や医療機関がそれぞれの取り組みを見直す。地域で新たな取り組みがまとまる可能性もある」(保健福祉企画室)。
「大迫地域医療を考える市民の会」共同代表の佐々木功さんは「無床化の代わりにどう手当てできるのか聞きたかったが、何も分からない」と憤る。
◆民間移管
センターの入院施設を、老人保健施設や医療機関として活用する民間移管に期待を寄せる住民も多い。だが、先行する花泉でも介護保険の負担を巡り市や県の協議が続き、実現は「条件が整い次第」(県医療局)だ。紫波郡医師会の試算では、入院時に20病床をフル稼働させても年間4000万円程度の赤字が出る。同医師会の渡辺立夫副会長は「今の法制度では民間移管しても赤字になる」と疑問視する。
毎日新聞 2009年5月8日 地方版