医療機関と患者・家族の間でトラブルが生じた際に、中立の立場で話し合いに立ち会う「医療問題中立処理委員会」を、県医師会(原中勝征会長)が設けて3年が過ぎた。全国の医師会で初の試みで、当初は中立性を疑問視されたが、今は病院側が患者側にきちんと事情を説明する場として定着しつつある。【八田浩輔】
県内の病院を受診した女性が乳がんを疑われた。診断ががんと確定したのは、乳房の組織を調べるなど3回の検査の後で、最初の受診から3カ月たっていた。女性は「最初の2回で確定できなかったのはミスで、その間にがんが進行した」と病院に苦情を言った。病院は06年に中立委に調停を申し立てた。
中立委は「あっせん調停会議」を開き、女性と病院から事情を聴いた。委員の医師らは「がんがあっても検査で見つけられない場合が約1割ある」「検査に3か月かかっても手遅れにはなっていない」と説明。一方で病院に対し、診断の限界について説明が不足していたと指摘した。女性は納得したという。
医療訴訟は時間と費用がかさむ。このため裁判なしで紛争解決を目指す「裁判外紛争解決」(ADR)が注目されている。
中立委もADRの一種だ。3年間で36件を扱い5件が調停で和解した。調停後に和解した例も5件あった。事情説明や謝罪を求める患者が多く、賠償請求は少なかったという。
当初は医師会内に「患者ばかりが有利になり医療機関にメリットがない」と、中立委への懐疑論があった。一方で、医師会が運営するため「医師寄り」ともみられがちだった。
3年後の今、委員の1人の小松満・県医師会副会長は「3割弱和解できれば十分」と自己評価し「医療機関は、不可抗力によるトラブルでも、結果が思わしくなければ謝罪して事情を十分に説明するのが大切。委員会はその役に立っている」と言う。別の委員の冨田信穂・常磐大教授(被害者学)は「3年間で、医療機関からの調停申し立ては1件と少なかった。今後は医療機関にもメリットを理解してもらい、制度を定着させるのが大切だ」と指摘している。
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■ことば
県医師会が06年4月に設置した。委員は医師、弁護士、犯罪被害者を支援する団体の代表ら約10人。医療機関も患者も、無料で調停を申し立てられる。調停会議は原則3回までで委員3人が仲介役を務める。事務局は県医師会内にあり運営費年400万円も医師会が負担する。
毎日新聞 2009年5月5日 地方版