◆医療ADR 話し合いで医療機関との紛争解決。裁判よりも時間と費用がかからず成果が上がっている。
■賠償額を提示
「医療ADR」(裁判外紛争解決)で長い実績を誇るのは愛知県弁護士会紛争解決センター(名古屋市)。98年からスタートさせ、昨年12月までに219件の申し立てを審理、97件で和解が成立した。同センターでは原則として、弁護士1人が斡旋(あっせん)・仲裁人として患者と医療機関側の言い分を聞き、賠償額の提示まで行う。
昨年1年間に限ると、37件のうち15件で金銭的な和解が成立、10件は決裂した。5件は患者が取り下げ、残る7件は審理中だ。審理回数は平均3回で、審理期間も平均4カ月と短い。和解額の平均は147万円だった。
例えば、白内障手術を受けた男性は麻酔の投薬ミスで視力低下の後遺症を被り、同センターに申し立てた。双方が弁護士をつけて話し合い、患者側は2700万円の損害賠償を求めたが、結局、医療機関側が950万円を支払うことで和解が成立した。計6回の話し合いで解決した。
このほか、椎間板(ついかんばん)ヘルニアの手術で右足がまひしたケースでは、病院側が1700万円を払った例もある。
医療ADRで斡旋・仲裁人の経験をもつ水野聡弁護士は「通常の裁判だと審理に2年前後はかかり、双方の負担は大きい。ADRだと弁護士が過去の判例などを考慮して賠償額を提示できるので、より解決が早い」とメリットを話す。
申し立ては当事者本人でも、弁護士を立てても、どちらでもよい。申立手数料は1万500円。センターの運営にあたる増田卓司弁護士は「双方が歩み寄れるよう無理な解決策を押し付けず、中立的な立場で話し合いを進めるのがADRの利点」と成果の背景を話す。
■3人体制
東京でも三つの弁護士会が07年9月から医療ADRを始めた。3人の弁護士が仲裁役となるが、うち2人は過去に患者側と医療機関側の代理人として豊富な弁護経歴をもつ人が任命される。
3人のベテラン弁護士が患者側と医療機関側に立って話し合いを進めるが、訴訟と違い、過失の有無や因果関係を調べたりはしない。医療機関側の弁護活動が豊富な第一東京弁護士会の西内岳弁護士は「医療機関側の代理人経験が豊富というのは、医療機関側の実情に詳しいという意味。話し合いで医療機関側の味方をして仲裁するわけではない」と中立の立場を強調する。
これまでに72件の申し立てがあり、19件で和解が成立した。申立手数料は1万500円。申し立ての中には病院側に謝罪を求めたり、詳細な説明を求めたりするケースも多い。患者側の弁護活動が豊富な松井菜採弁護士は「経験豊富な3人の弁護士が間に入るので、問題点の整理がきっちりとでき、冷静な話し合いができる」と3人体制の長所を話す。
■医師も加え
千葉県では愛知や東京とも異なる第三者機関の医療紛争相談センターが4月上旬、スタートした。医師、弁護士、学識経験者の3人が仲裁役となるのが特徴。すでに100件近い相談があった。申立手数料は患者側2万1000円、医療機関側4万2000円。同センターは「医師もいるので妥当な解決策が期待できる」と相談を呼び掛けている。【小島正美】
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■連絡先
愛知県弁護士会紛争解決センター 電話052・203・1777
東京弁護士会紛争解決センター 電話03・3581・0031
第一東京弁護士会仲裁センター 電話03・3595・8588
第二東京弁護士会仲裁センター 電話03・3581・2249
千葉の医療紛争相談センター 電話043・216・2270
毎日新聞 2009年5月5日 東京朝刊