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社説
5月3日付  憲法記念日  暮らしの向上に生かそう  
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 日本国憲法はきょう、施行から六十二年を迎えた。

 戦争の惨禍を経て生まれた憲法は、国民を抑圧した戦前の反省から、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つを基本原則にした。

 大事なことは国民が決める。国民が幸せに暮らせるよう、さまざまな権利を保障する。国が二度と戦争をしないよう、厳しい歯止めをかける-。簡単に言うと、こんなふうになるだろう。

 憲法記念日に当たり、それらに込められた重い意味をあらためて胸に刻みたい。

 時代の変化に合わせて憲法を改正すべきだという意見もある。議論の中心になってきたのが、戦争放棄などをうたった九条である。特に二年前までは、安倍晋三元首相が改憲を政権の重要課題に掲げたこともあり、論議が盛んに行われた。

 当時に比べると今は静かだ。だが憲法を取り巻く状況は少しずつ変わってきている。来年五月には改正手続きを定めた国民投票法が施行され、改正の法的環境が整う。

 問題なのは、多くの国民が気付かないうちに、なし崩し的な「改正」が徐々に進められていることだ。その一つが、海賊から船舶を守る目的で自衛隊をソマリア沖などに派遣する海賊対処法案である。

 これまでの自衛隊の派遣では、テロ対策特別措置法のように法律をその都度作っていた。しかし法案が成立すれば、海賊対処のためなら随時、どこにでも出せるようになる。

 武器使用の基準も緩くなる。現在は相手が攻撃してきた際などの正当防衛か緊急避難に限っているが、警告射撃に従わずに民間船に接近し続ける海賊船への射撃も認められる。

 政府は、海賊行為は犯罪だから武器を使っても憲法が禁じる武力行使にはならないとしている。だが、これを突破口に武器使用基準を広げたいとの思惑も透けて見える。

 揺らいでいるのは九条だけではない。基本的人権である生存権を定めた二五条も危機にひんしている。

 象徴的なのが非正規労働者だ。構造改革の名の下に進められた規制緩和で急増し、景気が悪くなると真っ先に切り捨てられた。昨年十月から来月末までの失業者は二十万人を超えるという。

 昨年暮れに東京・日比谷に設けられた「年越し派遣村」に大勢の人が押し寄せた光景は記憶に新しい。

 生活保護の受給者は今年一月時点で百六十二万人にも上る。四月からは、収入が最も少ないとされる母子家庭に支給されてきた母子加算が廃止された。

 豊かであるはずの経済大国で貧困が深刻な社会問題になっている現実は、社会保障制度の脆弱(ぜいじゃく)さを映し出していると言える。

 二五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、国に社会保障の充実に努めるよう義務付けている。

 憲法は、私たちの暮らしに直結する問題と深くかかわっている。しかし、せっかくの理念や条文も、使わなければ役に立たない。なし崩しの改正は許さず、憲法を大いに活用し、生かしていきたい。

徳島新聞社