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社説

憲法記念日 意義を冷静に再確認する時 2009年05月03日

 日本国憲法が施行されてから六十二年の月日がたった。普段は取り立てて意識しない憲法だが、国際情勢や社会が大きく変化する局面では、常にその“原点”に立ち返る必要性に迫られる。

 ●新たな貧困に直面

 昨年は米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発した「百年に一度」と言われる経済危機が世界に波及、輸出に頼る日本を直撃した。その中で、遠く忘れ去られたように見えた「貧困」という言葉が、亡霊のようによみがえってきた。

 企業の雇用調整で、非正規労働者が次々と解雇された。「派遣切り」という言葉も生まれ、一九二九年に書かれた小林多喜二の「蟹工船」が読まれた。戦後、右肩上がりの経済成長を続け、貧困を駆逐したと思っていた国民は、新たな貧困に直面して驚いた。

 憲法には「生存権」という概念がある。「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(第二五条)。さらに国には、社会福祉や社会保障などを向上させる責任を求めている。

 新たな貧困は、労働分野の規制緩和によって非正規労働者が働く人の三分の一を超えるまでになったものの、セーフティーネット(安全網)の運用や整備がおろそかにされてきた結果として生まれたものだ。

 非正規労働者の約六割は、雇用期間が短いなどの理由で雇用保険から漏れている。最後のセーフティーネットである生活保護の捕捉率(受給資格者中の支給者の割合)は、二割に満たないとの指摘もある。

 年末年始に東京・日比谷公園で「年越し派遣村」を開設した湯浅誠さんは「今は滑り台社会だ」と言い、「今年の自殺者は四万人を超えるのではないか」と心配している。宙に浮いた年金記録問題も含め、政府は早急に安定したセーフティーネットの構築に取り組まねばならない。

 ●止まった改憲論議

 国家の安全保障にかかわる憲法九条をめぐっては、改憲に積極的だった安倍晋三首相の退陣以来、論議は止まったままの状態だ。一方では、自衛隊の海外活動が拡大し続けているという現実がある。

 海上自衛隊のインド洋給油活動を一年間延長する改正新テロ対策特別措置法が昨年十二月、衆院再可決で成立。二月には、沖縄の米海兵隊八千人をグアムに移転させる移転協定に日米が署名した。地元との合意がなく、移転費用の根拠も明確でないままでの条約“格上げ”である。

 さらに今国会では、海外では認められていなかった武器使用を一部容認する海賊対処法案が成立する見込みだ。政府は海賊行為は「犯罪」であり、憲法が禁じる武力行使には当たらないとしているが、論議が尽くされたとは言い難い。

 ●現実先行の9条解釈

 一連の流れからは、政府が日米同盟強化を重視して現実を先行させ、憲法解釈でしのいでいる姿が浮かんでくる。その視線の先にあるのが集団的自衛権行使を禁じる憲法解釈の見直しであり、自衛隊の海外派遣を裏付ける恒久法の制定だろう。

 政府見解に反し、日本の過去の侵略行為を否定した航空幕僚長論文問題のほか、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて自民党内外から飛び出した先制攻撃論や核武装論など、九条を根本から揺るがすような強硬論も目立ってきた。

 来年五月十八日には、憲法改正の手続きを定める国民投票法が施行される。ただ現実には、与野党の「ねじれ国会」で改正は遠のいている。冷静な論議ができる今こそ、国民にとって憲法の意義とは何かを再確認し、見直す機会としたい。






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