2009年05月03日 社説
[憲法と沖縄]
人権保障の砦が危ない
突然、あなたの子供を含む家族が国家によって訴えられたとしたら?
人口160人の東村高江区がいま、「国策」による裁判騒ぎに揺れている。米海兵隊のヘリパッドを増設する計画に反対する区民14人が昨年11月、防衛省沖縄防衛局によって訴えられた。通行妨害の禁止を求める仮処分申請の債務者と名指しされた。
1996年の日米特別行動委員会(SACO)合意により、北部訓練場の約半分を返還する条件として高江の住宅地を取り囲むようにヘリパッド6基を設置する。
在日米軍再編の最終合意が交わされた翌年の2007年7月、那覇防衛施設局(当時)はヘリパッド着工を発表。この間、建設資材を搬入しようとするが、現場で反対運動を続ける住民に阻止された。
通行妨害禁止の申立書で防衛局は、ヘリパッド設置が「重要」である理由として、(1)県民が基地縮小を求めている(2)SACOで北部訓練場の約半分返還を決めた(3)ヘリパッドは返還条件(4)ヘリパッド設置は日米安保体制における日本の責務で、外交・防衛など国策の極めて重大な意義を有する―などを挙げた。
のどかな山村に国策が突きつけられた。
「静かな環境を守りたいだけだ」。高江区代議員会は2度反対決議した。一部住民が輪番制で毎日朝から夕方まで、訓練場の入り口近くに張ったテントで座り込む。
若夏の日がまぶしいこの季節、小鳥のさえずりが新緑に染みる。自然豊かな生活を守ろうと住民は座っている。
申立書の中で、住民らの妨害行為として「監視」の文字が繰り返し記されている。住民の反対・監視行動は「国策妨害」なのか。
さらに、訴えられた人の中に、8歳女児も含まれていた。後に取り下げたものの、真部朗沖縄防衛局長は「年齢、性別にかかわりなく妨害行為をしないように、という以外の他意はない」と語った。
8歳女児が妨害を意図した証拠はあるだろうか。国事業に反対する住民運動をすべて「国策妨害」と決め付ける行政判断に危うさを感じる。
基本的人権である「表現の自由」を侵害する危険性をはらんでいるからだ。
人権保障は憲法の存在意義であり、それは権力(立法、行政、司法)を分離することで弱い立場の人々を護るためにある。ところが今回の仮処分申請は、国策の合理性は問われないまま、行政が司法を使って反対住民を排除しようというものだ。
住民の反対運動に対する仮処分申請は異例だ。
本土での米軍基地建設は、激しい住民闘争に遭った。石川県内灘闘争(1952~53年)、長野県浅間山闘争(53年)、群馬県妙義山接収反対闘争(55年)、東京立川基地拡張の砂川闘争(55~57年)。計画はすべて中止された。
政治・行政が司法権を利用することが一般化すると、国民生活はどうなるだろうか。高江区の住民運動は、憲法の基本的な役割を再考する上で大切な問題提起をしている。
きょうは憲法記念日。
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